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良い天気なのかそうでないのか分からないな。あ。家の鍵閉めたっけ?そう明王君に問いかけると、知らねーよ。とだるそうな彼の顔が前方に見えた。何だ何だ文句あるなら言いやがれ。

「何で歩きなんだよ」
にゃろう本当に言いやがった。

「車乗れないし。…いや、運転免許は一応取るつもりなんだよ?」
「絶対お姉さんの運転する車には乗らない」
「何で」
「足りない」
「何が」
「命」
「ひどい!いいじゃん駅まで徒歩十分であんな良い物件無いんだから!今の時代エコ!」
はいはい、と私の一歩前を歩く明王君の足取りは軽い。いや、早い。ちょ、待って。お姉さん最近腰が。のろのろと明王君の歩調には合わせないで歩くので距離がひらく。十メートルくらい先を行く明王君がやっと気付いて振り返り眉間に皺を寄せて私が追いつくまで待っていてくれる。……ありがとう。

「ババアかよ」
優しんだかそうでないんだか。若者、口を慎まんか!

「いや腰がちょっと成長痛でね」
「いやいやもう身長そこでストップだろ確実」
「いやいやいやまだ伸びる。明王君なんかに負けない」
「いやいやいやいやあと三年で俺が抜くな」
ケラケラと笑って明王君は私が追いつくと隣にちょこんと並んで歩く。まだ私より少し小さい彼。何だろうこの気持ち。むずむずするんだ。弟がいたら本当にこんな感じかもしれない。そう考えたら無償に明王君が可愛くて可愛くてしょうがなくって、思わず。まだ男らしくガッチリしきってない彼の手をぎゅっと握ってみた。
すると明王君は一瞬体をビクッと上下に揺さぶらせて私の顔を怪訝そうに見つめてきた。にこりと笑顔を返せば、恥ずかしかったのか明王君は赤くなってばっと顔を俯かせる。何ソレかわいい。

沈黙が続く。これはちょっと…いや大分慣れ慣れしくし過ぎたか?と後悔し始め、それから駅にもうすぐ着くだろうと言う頃。私が一方的にぎゅっと握っていた手を明王君は握り返してくれた。
びっくりして今度は私が彼の顔を見ると、また顔を真っ赤にして、でも何か嬉しそうにしていたから。私も満足して券売機の前でやっと手を離した。
手が急に寒くなった、もう春なのに。

「なあお姉さん」
「何?」
「……やっぱ何でもねえ」
「…あはは、何それ」

(あ、定期忘れた)
(何やってんだよ…)

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