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ここにずっと居ればいいよ

そう言ったのは確かに間違いなく、うん、私ではあるが。待て、もう馬鹿っ。だから何考えてるんだよって後悔したって遅いんだね分かります。
にしても寝過した。もう朝ごはんって時間でも無い。今日が仕事休みでなければまだまだ新人の私は周囲の威圧に押しつぶされるところでーした。あーっぶね。よっぽど疲れてたみたいだ。とりあえず昨日の夜から多分何も食べていない腹ペコの明王君に何かを作ってやらねヴぁ。これでも名前お姉さんはお料理が得意なのだ。人は見かけによらないね!
明王君は、まだ気まずそうに私を見るけれど、「何か手伝う事とか、ある?」って聞いてきてくれるからもう可愛い。やっぱ明王君は可愛い子だった、素直って言うかね。人は見かけによらないね本当。私がいいよ、とにこりと笑えば、恥ずかしいのか分からないけれど明王君は微かに頬を染めて、カウンターで区切られたキッチンからリビングへ。ぐるんと素早く逃げるように。子供は遊んでればいいさ。

フライパンにサラダ油を熱す。冷凍しておいた肉やさっき炊いたばかりのごはんと調味料を加え炒める。それを容器に移し替えると使ったフライパンの余分な油をふき取って卵を注ぐ。隣の鍋にはすりおろしたリンゴとトマトケチャップ、ウスターソース、水を加えて特性ソースを作った。
何を作っているでしょーうか!

「…それ、オムライス?」
「ぴんぽーん、オムライスといっても半熟卵のオムライスでーす」
「ふうん。器用だな」

薄く焼いた卵を先ほど炒めたご飯の上に乗せてソースかけて。綺麗に盛り付けるのを見ていた明王君は関心した様にキッチンのカウンターから背を向ける様に配置されているソファから顔をのぞかせながら言った。可愛い。あれだね、一人だと適当に済ませちゃうけど、誰か食べてくれる人がいるとこう、腕によりをかけちゃうってこういう事だね。冷蔵庫からお茶や、昨日会社行く前に作って食べ損ねたサラダを出す。

「俺、トマト駄目だけどケチャップはいけるんだよな」
「えっ明王君トマト駄目なの?!かっわいーーー」
「るっせ!誰でも好き嫌いの一つや二つあるもんだろ」
「あ、運ぶの手伝って」
「………」

しぶしぶ動き出す明王君に、早くーと急かすとちょっと小走りで走ってくる彼はまるで弟。こんな弟いたらいいね。モヒカンは止めてもらいたいですけど。
運んでから向かい合うようにして座った私と明王君。ダイニングには一応四人が食卓を囲めるテーブルと椅子がある。良いんだよ、いつか男作って子供二人産むから。なんてどうでも良い事考えていたら明王君がいかにも不機嫌そうな顔で私を見ている。何だし。

「俺の言った事聞いてた?」「あー、え?トマト嫌いなんでしょ可愛いね」「違うし」「えーなんだよー」「…もーいい」「あーっすねた?」「腹へってイライラしてるだけ」「イライラするとハゲちゃ…あ」「何だよ、そのもう手遅れだったかー…みたいな顔うぜえ」「エスパー?」「…お姉さん意外に天然だな」「素直とおっしゃい」
とりとめのない会話。誰かと気軽に面と向かって話す、なんて久しぶりだった。
てーかおもくそため息をつかれた。要はお腹すいてるってわけだろう?

いただきますと二人で手を合わせる。ぱくっ。ふむ上手い。流石だ私。自画自賛とか痛くなんてないんだ。不動もオムライスを口に含むと、お腹が減っていたからだろう、一瞬だけ目を輝かせたのが分かった。私の方をチラリと見て「おいしい」と言う。何それ可愛い。
そっかそっか良かった、私はまるで家族が出来たようで心が弾んでいる。子供が出来たらこんな感じだろうなあ、と。

「そういえばお姉さん、仕事は?まさかフリーターなわけないよな?」
「馬鹿者。フリーターなんてもんだったら貴方つれて来てないわよ、今日は偶々休みだったの」
「だよな、ちゃんと仕事着っぽいの着てたし」
「何よ、ぽいのって。ちゃんと仕事着よ」
ふん、と拗ねた風にしてみると明王君は悪戯っぽく笑った。本当、綺麗に笑う子である。
何ていうか、そういうテクを知らぬ間に使ってるねこの子は。
カチャン、とスプーンを置く音が響いた。二人でもやっぱりこの家は広いなあ、と思っていると不意に明王君に見つめられて理由なんて無いけど焦って「何?」と問えば「いや…」と視線を外された。もごもごと、何か言いたそうにしているのに。

「言いたい事があるなら言いなさいよ、これから一緒に暮らすんだから、遠慮なんてされたら私、嫌だよ?」
「んん…いや。えっと…。…なあ、後で掃除機と…洗濯機の使い方、教えてよ」
「え?」
「俺、居候の身になるから。家事くらい手伝う」
「ええ?」
「っ、だから!養ってもらうんだから、それなりに働くっつってんだよ!」
言葉に出して余計に恥ずかしくなったのか耳まで真っ赤な明王君。
何この小動物かわいい。そのまえに何て良い子なんだ!!私が明王君の歳の頃はそれはもう親がどれだけ忙しく働いていたって布団に潜り込んでPSPしてる様な子供だったから。そのせいで今の生活がちょっと苦しい。だから手伝ってもらえる事は大いにありがたく、そしてその精力を持っている彼を尊敬します。凄い明王君☆ぱちぱち。
じゃー後で教えたげると言えば明王君は小さく頷いた。それからもの凄い勢いでオムライスを平らげた。美味しかった。

掌を合わせてお互い見合って「ごちそうさま」と言えば明王君はちゃんと食器を運んでくれるし「洗うくらい出来る」と言って私の分を寄越せと言うのだからそんなの何かズルイ。これが有言実行とやらですね。言われるがままに食器を渡せば鼻を擽る洗剤の匂いと皿と皿がガチャガチャとぶつかり合うような音がする。……笑。やるのは良いがもうちょっと丁寧にやらないか?

苦笑しながら私はある事をひらめいて手をポンと叩いた。

「ショッピングに行きましょう!」
「は?」
洗いものをする手を止めて明王君はマヌケな声を上げる。おいコラ君ガチャンて音が聞こえたぞ。まあ聞いてなかった事にして。

「ホラ、日用品いるでしょう?私持ってる服少ないし明王君に貸すのも限界ある」
「や…でもさ、それってお姉さんの金じゃん?」
「何今更遠慮してるの、だーいじょぶよ、一応真面目に貯めてるから」
「何だよ一応って。信用できねー」
なんて言ってるけど笑ってるよ明王くん。

「はいはい、じゃーそれ洗ったらソッコー行くから!私戸締りしてくる!」
「んーわかった。…あのさあ」
「なにー?」
「……ありがとう」
「えっ何々カーテン閉めた音で聞こえなかったぁー」
「…なんにもないから」
「えー?」

でも何か、本当に楽しそうに笑ってるよ。良かった、なんやかんやで私も楽しいし、寂しい生活も華やいでいきそうだし。
私も無意識に鼻歌なんて歌って。それを聞いた明王くんに「お姉さん気持ち悪い」って言われた。ちょっとショゲた。

(あれ?ちょっと待って私手玉にとられてね?)
(気のせいだって、あ、洗い物終わった)
(ああ、ありがとう)


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