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都会の煌びやかに輝く建物のネオンが眩しかった。まだ二十歳にも満たない高卒の世間知らずな私が上京?ありえない。数ヶ月前までいた故郷が田舎と言う程田舎で無いにしろ、この都会での人酔いと言ったらもう。

大した学も無いくせに親のコネやら何やらで一丁前にそれなりの企業へ就職した私は、信じられない位疲れきった顔をオープンにしながら帰宅中。
接待は嫌いである。まだ若い私はその場面でお茶を出すくらいの立場なのだけれど、仮面でも貼り付けているんじゃないかと思う程ニコニコしながら腹の探り合いをする大人達を見るのは正直ウンザリする。あんなに嫌いだった勉強が可愛らしく思えた。

早く帰りたい。心に占めるのはそんな気持ちばかり。遠い郊外なので何本も電車を乗り継がなければならない。バスや電車云々が嫌いな私にとってこれは難儀である。面倒臭い事この上ないのである。
何度目かになるか分からないため息をついて会社から一番近い駅へと足を進めた。気持ち、歩くスピードは速くなる。

その時だった。一瞬チラリと目が合って、気になった。見上げれば首が痛くなる程高い建物の間の薄暗く狭い隙間に。誰かがいる。壁に凭れかかって、うとうとと目が閉じたり開いたりする。…身長などからして、中学生くらいだろうか。
顔は暗くてよく見えないけれど。男の子だった。奇抜な髪型をしている、あれは所謂…モヒカン?服は着馴染みすぎているのかよれよれで、サイズも男の子に合っていないようであるし、何よりひどく汚れていて所々破れていた。

ああいうの、本当は関わらない方が良いのだろうが、思わず足を止めた。だってまだ子供なのに。もしかすれば虐待か?今の時代あの歳で捨てられる事は無いだろうが…誰か変な大人にでも目を付けられたら、いくらあの子が不良の類であっても危険だろうな。なんていうのは半分言い訳で。
半分の好奇心から男の子に近付いた。立ち止まった私に、その子は怪訝そうに顔を上げた。

「女かよ」
しかもガキ、と。女で何が悪い。そもそも君の方がガキだからね生意気な。その子はまるで挑発してくるような声色だった。子供のくせに、変な色気を感じた。

「何だよ、何か用?」
「君こそ何してるの。子供は早く帰りなよ、こんな夜の街、危ないわ」
「余計なお世話だ、お姉さんだって同じじゃん?危ねぇなんて俺が一番よく知ってる」

そもそも、帰る家なんてねーし。ボソリと私とは視線を合わせようとしないでその子は呟いた。何、この子ホームレスなの。

「お母さんやお父さんは?」
「オヤジは首吊りババアは後追い」
一瞬重い空気が流れて、これはマズいと思った私がゴメンと言うとその子は別に、と特に傷付いた様子も見せずに振る舞う。凄いなあ。

「家は」
「あったって帰るもんか」
あいつらがいるから、と。中学生の言動だとは思えない針のある言い方だった。

ああ何だ、家はちゃんとあるんだね。しかし言っても動こうとしないな。アレだねこの子、波乱万丈人生ってヤツだね。大分グレてる感じ。

今まで生ぬるい生活を送ってきた私にとって、この子は…言い方は悪いが興味を引いた。
きっとこういう子、他にも沢山いるんだろうなあ、と。そう考えたら自分って幸せなのかなあ、と。その時思い出した大人達の汚い笑いに、そうでもないかなあ、とも思った。

ゆっくり近付いてみると、驚いた。
何て整った顔立ちをしているんだ、この子。これじゃ余計危ないじゃない。
じっと、どうしたものかと彼を見つめるも(あ、睫長い)、何だか手慣れている様子で身構える事をしない。私が女だからって警戒すらしないのだろうか。

「可愛い顔してるんだね、中学生?」
「…二年。…何なら連れて帰る?」
その子は意味の籠ったニヒルな笑みを浮かべた。その意味はまあ分からなかったけれど、彼に向かって自然と手を差し伸べた。

「帰る家が無いんでしょう?」
「………」
その子は押し黙って俯いた。だったら良いじゃないか、と。ニコリと笑った私にその子は怖気づいている風だった。私は自分が言っている事さえ理解出来ないでいて、あれ、こういうのって私が危ない立場なのかなあ…と。だけれど、口が勝手に動いていたのだ。

「私の家に、おいで」
こんなのただの気まぐれだった。
その子は私の手を取って、何だか私を馬鹿にした様な目で見てきて可愛くなかったけれど、放ってはおけなかった。

だがしかし、この子を連れて帰って自分はどうする気なのだろう。家族の事は何となく分かったにしろ、さっき会ったばかりの見知らぬ少年。つーかコレは犯罪ではないのか?私は犯罪者なのか?変な罪悪感にみまわれつつ、二人で駅へと向かった。

自分の行動が到底理解出来ない。養う事は簡単だ、給料はめちゃめちゃ良いという訳ではないけれど、親に送る心配が無い私にとって有り余るほどだし。どうせ男なんていないし、一人で住むには広いくらいの家だったし。別にいいか、なんて。

後から、この行動は軽率だったと思う。いや本当に。

手を握って、ちょこちょこついてくる男の子。
あ、そういえば名前、まだ知らなかった。

「君、名前は?私は名字名前」
「不動明王」
この日を境に、多分私の白黒した世界が180°変わったんだと思う。

(ふどう、あきお君ね

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