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中学サッカーは腐敗した。フィフスセクターの管理の元、少年達は自由にサッカーをさせてもらえない所か、肝心な勝敗までもが指示されるようになった。逆らえば生徒だけでなくその学校自体に未来は無いと暗示されている。サッカーの強さが、その中学校の社会的価値を決める程になってしまったのだ。
未来あるサッカー少年達はそれが当たり前だと、しょうがない事なのだと。中学の三年間だけ我慢していれば良いのだと耐えた。それが間違いだと誰もが考えただろうが、革命と言う名の風を吹かせる者はついに誰一人として現れる事は無かった。

その制度が数年も続く間に、裏で黒く目を光らせる者が現れた。フィフスセクターに所属しているある人間が賭けを始めたのだ。勝敗が決められている試合、どちらが勝つかなど組織の人間ならば容易に知れただろう。その賭け事にはフィフスセクターの最高管理者であるイシドシュウジにさえ手に負えなくなってしまった。大人達の醜い争いは過大していった。

その悪循環が止まる事なく、日本中の中学、高校、更には世界中にまで繁栄し、プロにまで及んだ。

世界のサッカーが腐敗した。全てにおいてのサッカーが管理されるようになってしまったのだ。全ては平等なサッカーを楽しむためだと。酷く醜い笑みを顔に貼り付けたまるで悪魔のような、多分最高権力者は語る。イシドシュウジの姿はもうしばらく見ていない。

その裏で汚い手が回る。人々に格差が出てくる。今更反逆に名乗りを上げた人々は組織によってひねり潰される。政府も彼らの言いなりだ。

ひどく貧弱していく世界。明らかな格差が広がり続け、大半の人々が上に立つ者には絶対の権利を握られてしまった。そのような人々の増加は止む事なく。

いつしか、少子化の進んだ日本では恋愛の自由さえ奪われるようになってしまった。もはやサッカーがどうと言っている場合ではなくなった。
女は16、男は18になると一体誰が指示をするのか、決められた相手との結婚を強いられるようになる。交わり子を作り、産まれた子それぞれには番号付けされるようになり、個人情報の全てを管理する腕輪がつけられる。60を越えた老人、または病人は、楽園と称される施設へと連れていかれ過ごす。それを人々は幸せだと感じるようになってしまった。

世界は、腐ってしまった。

世界各国で争いが絶えなくなった。戦争が広がった。化学が繁栄していた時代の煌びやかさからかけ離れた、空を見上げれば黒い煙しか見えなくなった。

私は、そんなひどい時代の最先端で生まれ落ちた。どうやら私は組織側の人間だったらしく、生まれたと同時に親から離され与えられた番号で呼ばれるようになる。物心つく前から厳しい教育を受ける。逆らえばまるで殺されるような勢いでキツい罰を与えられる。それは私だけではないから、どんなに辛くてもこうして耐えているのだけれど。

「ね、倉間」
「その名前で呼ぶなっつったろ」
「どうして?」

私がそう首を傾げれば倉間は何だか悲しそうな顔をする。そんな顔しないでよ、生まれた時からフィフスセクターという組織の教育システムの中で育てられたから、名前も番号以外無ければ親の顔すら知らない私に。彼は同情しているのだろう、自分だって私と対して変わらない境遇のくせに。気なんて使わないでよ。名前があるのなら、それで呼ばれた方が嬉しいに決まってるのに。彼はこの時代で稀なくらい優しく、気遣いが上手である。

「俺はNo.e-499だろ」
「私、倉間って呼ぶの好きなの」
「No.e-500…。それ、一応名字だから、俺だけの名前ってわけでも無いんだよ」
「でも、名前は名前だから」

私達の番号は隣同士。つまりは生まれた時期が同じで、私はこの倉間という少年と幼なじみにあたる関係だ。私は、倉間が好きだ。だがその想いが告げられる事は無い。なぜなら

「明日なんだな」
「…うん」
「…寂しくなる」
「…っ、……そんな事、…言わないでよ…」

私は、明日で16の誕生日を迎える。生まれた時からそうだったが、こんなに嫌な誕生日は今までに無い。だって私は、倉間じゃない、好きでもない人と結婚するんだ。こんな叶うはずのない想いを伝えるわけにはいかない。そうすれば、いくら優しい倉間でも困るから。この気持ちは、ひた隠しにするしか無かった。

ドン、と小さな空間の扉が強く叩かれその音が部屋中に響く。遠くからもボールの打ち付ける音の他に、銃声と高い悲鳴が聞こえる。

「もう、授業が始まる」
私は、その運命を悲しいとさえ思わなくなった。だって、倉間が傍にいたから。もう辛い事だって、何でも乗り越えられるんだ。胸が苦しいなんて気のせいだと、頬に冷たい何かが流れているのも気付かないフリをした。

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