neta | ナノ


 純粋に狂気

『幸せになれるよ』

その神を名乗る男の言葉を信じたから生まれ変わったのに、どうしてこうなってしまったんだろう。家族に囲まれて、友達に囲まれて、あわよくば恋人を作って……のような普通の幸せを願って生きてきたのに、今の陽菜子には家族も友達も恋人もいない。

どうして私が……。そう嘆いた所で意味のない事は分かっている。しかし自分とは正反対の彼女、鳴海香恋を見るたびに虚しくなるのだ。

“彼女”は美しかった。男女問わずに皆が夢中になった、フランス人形の様に整った美貌を少女は持っていない。茶色い肩までの癖っ毛はまるで痛んでいるかのように見えて、陽菜子にとってはコンプレックスだった。

“彼女”は愛されていた。妬みから嫌がらせに走った生徒達から香恋を守るため、メンバーはいつも奔走している。しかし陽菜子がその手に守られる事はない。同じマネージャーなのにも関わらず、陽菜子の事はみて見ぬふりをする。

“彼女”の周りにはいつも人がいるのに、陽菜子は一人だ。“彼女”をみていると自分が惨めになる。陽菜子は悲しかった。

どうしようもなく泣きたくなった時、陽菜子が逃げ込むのはいつも屋上だ。本来なら立ち入り禁止であろうその場所が、陽菜子にとっては安息の地なのである。此処ならば冷たい視線に晒されなくてすむし、此処ならば一人になれる。だから屋上まで来たのに、今日は先客がいた。

「あれ?」

陽菜子が扉を開いた音に、先客が振り返る。一目見ただけでも綺麗だと分かる先客は、きょとりと目を瞬かせた後に笑顔で言った。

「こんにちは。貴方もサボり?」

ふわりと微笑む彼女の笑みはひどく優しくて、久しぶりに笑顔を向けられた陽菜子は思わず泣いてしまった。

     *

終盤はこんな感じ

「アンタ、私を不幸にして何が楽しいの!?どんどん私の周りからみんなを取って行って……!そんなに私が嫌い!?答えなさいよ!!」

吠えるように言った鳴海に対して、依里は始終きょとんと目を見開いていた。しかし少し経ってから顔の前で手を組んで、ゆったりと微笑む。その様子はまるで難しい問題がようやく解けた子供の様で……。そこまで考えて、鳴海はぞっとした。

それじゃあまるで、目の前の女は人の気持ちが全然分からないみたいじゃないか……!

「そっか、ごめんね?陽菜子ちゃんを幸せにする事を考えていたから、貴方の事は考えていなかったや」

ごめんね?と首を傾げる彼女の笑みは純真そのもの。この状況には不釣り合いなそれを見て、鳴海は震えだす身体を止める事が出来なかった。

「うーん……でも、ちゃんと貴方の事まで考えていたとしても、みんなを幸せにするのは難しかったかな。だったら貴方は不幸せになるべくしてなったってことじゃない?」

彼女の唇から紡がれる理不尽な言葉に反論する程の余裕は鳴海になかった。しかし震える唇で、何とか言葉を紡ぐ。

「この、化け物ッ!」
「……えー?」

鳴海の罵声に依里は首を傾げただけだった。それからなぜか嬉しそうに微笑んで、言う。

「化け物じゃないよ。私の事は魔法使いって呼んでほしいな」

2014/05/28 12:21
[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -