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 世界が滅ぶ日まで

グラニデは美しい世界だった。マナに満ち溢れた大国は最先端の技術で豊かで、マナの少ない村々では細々と恵みを分け合い、自然と共存していく。貧富の差はあったけれど、それぞれがそれぞれなりに短所と長所を持っている、良い世界だった。お互いに助け合って生きていた綺麗な世界だった。

そしてそんな美しい世界は今、着々と破滅へ近付いている。

空気の抜けるような独特な音と共に扉が開き、カイはバンエルティア号の中へと足を踏み入れた。ただいま、なんて久しく言っていない。しかし返事が返ってくる事は無いので言うだけ無駄だ。カイはすすり泣く声だけが満ちるホールを足早に通り過ぎた。

あれだけ賑やかだった船内は静かで、人の気配も少ない。避けられない破滅へと世界が向かっているのなら、最期は家族の元で、と考える者が少なくないからである。船に残っているのはカイを含めて二桁に届かない。残っている者は死の恐怖に震えて泣いているか、力無く座り込んでいるかがほとんどだ。少数派としてはハロルドなどはまだ諦めていないらしく研究に没頭しているが、ニアタ曰く正直望みは薄いそうだ。

そしてカイは、同じく少数派でまだ諦めてはいない。しかしハロルドの様に実験などの意義のある行動ではなくて、ただ各地を渡り歩いているだけ。意義はないが、意味はある。カイは今、世界の記憶を自分自身に刻み込んでいる。

「カイ」

ふと、顔をあげる。いつもと変わらない表情の介添え人を視界にとらえて、カイは薄く微笑んだ。あれだけ毛嫌いしていた介添え人が好ましく思えるのはなぜなのだろう。掌を返すようで申し訳なくカイは思っているが、クラトスは何も言わない。子供の反抗期ぐらいに思っていたのかもしれない。

クラトスはカイの瞳をじっと見つめる。言葉はなくとも“どうするのか”と尋ねられているのが分かってカイは自然と視線を下げた。

「……もう一日だけ」

そうか、とクラトスが頷く。もう一日だけ、もう一日だけと何度も何度も先延ばしにしているのにクラトスは怒らない。その懐の深さに感謝しながらカイは自室へと足を踏み入れた。




2014/04/17 13:52
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