▼ ディセンダー、ルミナシアへ行く
ある所に女の子がいました。記憶を無くして倒れていた、世界樹の色をした目がとても綺麗で純粋な女の子です。
女の子は文字が読めなくて剣も持った事がないけれど、普通の子でした。そして、誰かが傷付いたら心配する心の優しい子。女の子は自分にも出来る事を探すために剣を持ち、文字を学び、率先して様々な事に挑戦していきました。
ある時、女の子は普通の人よりマナの量が少ない事に気付きました。そのせいで身体が弱かったけれど、女の子は頑張る事をやめませんでした。そして何故か、体内のマナの量はどんどん増えていったのです。
マナが増えていくと同時に女の子の調子はどんどん良くなり、女の子は様々な分野で実力を発揮していました。しかし、事件は起こってしまいました。世界の負を名乗る人物によって、女の子の仲間が傷つけられたのです。女の子は傷ついた仲間達を見て涙を流すことしか出来ない自分の存在を悔みました。
ある日、氷の精霊が女の子の元にやってきました。戸惑う女の子に向かって、彼女は言います。
『汝こそがディセンダー。精霊の世界まで届く光をまとう者』
仲間達は驚きました。そんなはずはないと否定するものもいました。しかし女の子は自分の手を見つめ、呟く様に言いました。
『ようやく私にも出来る事が見つかった』
女の子は嬉しそうでした。
それから女の子は世界を救うためにたくさん戦います。周りを置いていくかのようにどんどん実力を付けていきます。その途中で失くした記憶を取り戻し、両親の事を思い出しても女の子はディセンダーと言う役目から逃げませんでした。女の子は仲間達の役に立ちたかったのです。
でも、そんな女の子の事を良く思わない人もいました。ディセンダーということが周りに広まってしまい、今までとは態度が変わった人もいます。
『ディセンダーだからそうなんだね』
女の子はそう言われるたびに寂しそうに笑いました。
世界の負、ゲーデと女の子は戦いました。孤独な戦いでした。一度では倒せなかったので、世界樹は時間を戻して何度も女の子とゲーデを出会わせ、何度も戦わせました。時間を戻す代償に、女の子は両親の記憶や幼い頃の記憶を全て失いました。女の子は寂しそうでしたが、世界を守るために戦う事はやめません。
六度目の時。今度は仲間達が一緒でした。女の子はその時ついに、負と仲直りをしたのです。倒したのではありません。負は私達人間から生まれ、世界樹によってマナに変わるもの。だからマナの化身の女の子と負の化身のゲーデは仲直りをしたのです。
でも、女の子はまだ帰って来ていません。負との長い戦いに疲れて、世界樹の中で眠っています。だから女の子が帰って来たら、その時は『おかえり』を言ってあげてください。そうしたら女の子はきっと世界樹の瞳を嬉しそうに細めて、『ただいま』を言うのですから。
ぽたりと手の甲に水滴が落ちた。カイは絵本を濡らさないように閉じ、手の甲で後から後から溢れる涙を必死で拭う。悲して仕方がなかった。世界が二周目に差し掛かった時も一周目に戻れないと分かった時も悲しかったが、今ほどではない。
この絵本の作者が孤独な戦いと言っている通り当時はカイもそう思っていたが、今は違う。カイは孤独じゃなかったのだ。今カイが置かれている状況が本当の孤独と呼ぶに値する。
カイは目を強く擦りながら眼下の街を見下ろした。世界樹の枝に座るカイが見下ろす街がいつも見ていた物と違い、グラニデより技術は発展しているようだ。人口も多そうだし、グラニデよりも栄えていると言える。しかしそれさえ憎らしく思えた。カイは膝に顔を埋め、きつく眼を閉じる。
ルミナシア
それがこの世界の名前。絵本を抱きしめ、カイは声を上げて泣いた。
2014/02/14 21:33
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