サマーブルース・タイムマシン


先に言っておきたい。決して私はショタコンとかそういうわけではないし、高校生の頃を懐かしんで高校生に戻りたいなあなんて思ってみても、今、現在に高校生の男の子と付き合いたいなんて思ったことはなかった。・・・多分。
テレビで若いアイドルや俳優の男の子が活躍するのを見てすごいなぁ、がんばってるなぁと思いはするし、街中でわいわい騒いでる高校生を見て若いなぁ、かわいいなぁと思いはするけど、その男の子を好きになったりしないし、ましてや付き合いたいなんて思ったことは確実にない。

なかったのだけれど。


「おねーさん。ずっと見てたんですけど、好きなんで付き合ってくれませんか?」


なんて、軽い口調で話しかけてきた彼を見てはじめは何の勧誘かと疑ったし、服装を見て高校生だと気付いてからは友達との罰ゲームか何かで話しかけているのかとやっぱり疑った。


「ごめんね、そうやってからかって遊ぶのはせめて学校の友達とやってくれる?」

「えっ、あっ、待って、お姉さん!待って!」


小さな子が通せんぼでもするように私の前に立ちはだかるものだから、思わず足を止めてその顔を見上げてしまった。思っていたよりずっと背が高くて、そして、高校生相手にこんなことを言うのはどうかと思うけれどとても綺麗な顔をしている。バランスよく整った目鼻立ちは、綺麗な顔の教科書にしてもいいだろうというくらい、はっきり言ってしまうとイケメンだ。
こんなにもイケメンの高校生が私に声をかけるなんてやっぱり罰ゲームでからかわれているに違いないと確信したので思わず開いてしまった口をごまかすように愛想笑いを浮かべて通り過ぎようとした、したんだけれど。


「あぁっ、待って!待ってってば!」


ぱしりと腕をつかまれて進もうとした身体を止められる。いくらイケメン高校生相手と言えども突然腕をつかまれてはいい気はしない。いくら高校生のかわいいイタズラと言えどもちょっといい加減にしてくれと表情をゆがめて一言文句を言ってやろうと思って振り返った。・・・のだけれど。振り返った先の彼の表情があまりにも必死で、イケメンには似合わない情けない表情で、額に冷や汗までかいてなんというか、捨てられた子犬みたいにこっちを見るものだから私は全然悪くないはずなのに罪悪感が芽生えてきた。仕方ない、とため息ひとつ吐いて口を開いた。


「ねぇ、その、君どうしたの?罰ゲームの命令をした人がそんなにこわい人とかなの?」

「待って!まずなんで罰ゲームだと思ってるの!?」


もう完全に罰ゲームだと思い込んでいたというか信じ込んでいたので、それをなぜと言われて戸惑ってしまう。言われてみればどうしてだろうというか、それが当たり前だと思っていたので困ってしまった。
でも罰ゲームじゃないとしたらこの高校生の男の子に好きだなんて言ってもらえる理由が全然わからない。周りに若いぴっちぴちの、なんて言い方おじさんみたいだけど、言葉通りのきらきらした女の子たちが周りにいるのに私みたいな関わったことのない疲れ切ったOLを好きになる理由なんてあるのだろうか。年上に憧れる年ごろってやつなのかな。


「お姉さん、大丈夫?気分でも悪いの?」


考え込むように黙ってしまった私を心配してくれたのか近くで顔を覗き込まれて思わず身体がびくりとはねてしまった。だって、こんなにも綺麗な顔に覗き込まれたら誰だってこういう反応をしてしまうに決まっている。でもこれではまるで初心な、それこそ高校生みたいじゃないか。


「その、年上に憧れてるのか知らないけど、あんまりからかわないでくれないかな。」

「からかってないんだけどな・・・。ねぇお願い。一回でいいからお茶だけでいいから、俺とデートしてくれませんか?」


こいつ、確信犯だ。自分の顔が整っていることも、自分の魅力的な表情もしっかりわかってるに違いないってくらい、イケメンな表情で、真っすぐに見てくるのはずるいと思う。年下だってわかっているのに、高校生だってわかっているのにきゅんときてしまう。なんてこった。わざわざ対応しないで無視して走り去ってしまえばよかった。
気付いたときには一度だけなら、なんて自分だとは思えないようなかわいい声でかわいい言葉をつぶやいていた。

ぱっと顔を明るくした彼が私の腕をつかんでいた手をさりげなく手のひらの方へ移動させてぎゅっと握り締める。私の顔の高さまでしゃがんでからうらやましいくらいの綺麗な瞳を嬉しそうに細めて私を見つめる。

こ、こいつ高校生のくせに慣れてやがる。


「ありがとうおねーさん!俺ね及川徹っていうの。」

「お、及川君。」


思わずどもってしまう。彼よりずっと年上なのに、これではまるで私が女子高生で彼が年上みたいじゃないか。まるで、初心な少女に戻ってしまったみたいだ。きっと及川くんは女の子の扱いにとても慣れているに違いない。こんなにレベルの高い高校生と一度でもデートの約束なんてしてしまった私は果たして大丈夫なんだろうか、でもだって、かわいいと思ってしまったのだから仕方ないじゃないか。


「おねーさん、できたら、徹、の方が嬉しいな。」


さっきまで子犬のようだった表情が嘘のように獰猛な瞳をして、少しかすれた甘い声で囁くようにつぶやく。男は狼なのよと歌っていたのはだれだったか。ずるい、ずるすぎる。こんなの高校生がしていい表情じゃないぞ。
少なくとも私の高校時代にこんな顔する男はいなかった。いや、私が高校時代に縁がなかっただけかもしれないけれど。そのせいで二十歳も超えた今、こんな男子高校生に振り回されてしまっているのだ。
そのことをうらむべきか、それとも二十歳を越えてからこんなイケメン高校生にひっかけてもらえたことを喜ぶべきなのか、残念ながら今の私にはわからない。


「と、徹くん。」

「うん、いい感じ。よろしくね、おねーさん。」


あっ、そういえばお姉さんの名前教えてほしいな、なんて笑う彼は、また年相応の高校生の男の子の顔をしている。くるくると変わるその若さにたった一度のデートでもついていけるものか今からとても心配だけれど、すべてを暑さのせいにして、女子高生のような気持ちではしゃいでみようか、なんて思った私はきっともうこの時及川徹という男にひきこまれてしまっていたんだろう。

あぁもう、私はほんとに、年下なんか好きじゃなかったんだから。

白いシャツを制服のシャツから、スーツのシャツに変えて、いつの間にか私の部屋でお酒を飲むまでに一緒に時を過ごしてしまった彼の隣でむくれながらそういえば、やっぱり年下らしくない顔で満足そうに笑った。


サマーブルース・タイムマシン
20170709


及川徹がわからなくて今までの何より自信がない無事に更新しました。ごめんなさい。でも楽しかったですごめんなさい!!!


[*前] | [次#]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -