恋はいかがですか

これは未練なのか執着なのか。そんなのわからない。わからないけど、今私は彼に会いたいと思っている。その気持ちだけで十分じゃないか、と思ってしまう私は周りからしたら学習力のない女なのだろうか。


「なーにしてんの?」


食堂でスマホの画面に視線を落としながら思考に没頭していたら、後ろからいきなり声をかけられて肩が跳ねる。慌てて後ろを振り向けばそこには同じゼミの高尾くん。私がこんなにも驚くとは思っていなかったのだろう少しきょとんとした表情をした後、笑いながら軽い謝罪を口にして私の向かいに座った。同時に机に置かれた豚キムチ定食から食欲を誘う香りが漂ってきて、先程満たされたばかりのはずの胃袋が刺激される。手にしていたスマホを画面を下にして机に置くついでにその隣に置いていたチョコレートを一粒つまんで口に含んだ。


「眉間に皺寄せながら何悩んでんの?」
「……来週提出の課題がなかなか終わんなくて」


きちんと手を合わせていただきますと呟いてから定食に箸を伸ばす目の前の高尾くんをちらりと見てから、机に広げられているレジュメやらルーズリーフやらを視界にいれてため息を吐く。この空き時間の間に終わらせてしまいたかったけど、この進行具合じゃ到底無理そうだ。話し相手ができてしまったおかげで、元々ないに等しかった集中力はついに少しも残らずどこかに消えてしまった。頬杖をついてもう一粒チョコレートを口に放り込む。


「高尾くんはこれもう終わった?」
「あー、それオレもまだやってねーわ。結構めんどくさい感じ?」
「もう何書いてんのかちんぷんかんぷん。意味わかんなすぎてレポートに何書けばいいのか全く思い付かないんだよねー」
「うわ、マジか。オレもそろそろ手つけねーと」


そんな他愛もない話をしながら、あんまり話しすぎても食事の邪魔かな、と思って視線を下に落とす。今日はもう課題に真面目に取り組む気が削がれてしまったから、一気に手持ちぶさただ。でも次の講義まではまだ時間がある。やることもないので、一応なんとなくレジュメに目を通してみるけど、難しい言葉たちは全く頭に入ってきてくれない。来週までまだ日があるとはいえ、このままだと前日になって慌てることになりそうだなあ、なんて考えてると高尾くんが「そういえば、」と話し始めたので顔を上げた。高尾くんと視線が絡み合う。


「さっき画面見えちゃったんだけどさ、誰かに連絡しようとしてたんじゃないの?」


邪魔しちゃったよな?しかも画面見ちゃってごめんな、と謝る高尾くん。まさか、さっき後ろから声をかけられたときに画面を見られていたなんて。別に悪いことをしてるわけではないはずなのに、なんだかやましい気持ちがじわじわと心を侵食してくる。それを見ない振りして、別に急ぎとかじゃないから大丈夫と誤魔化してまた一つチョコに手を伸ばす。


「もしかして元カレ?」


からん。軽い音を立ててチョコが机に落下した。高尾くんは知らないと思っていたからこそさっきの言葉には動揺しなかったけど、さすがにこの言葉には驚きを隠せない。…偶然、だろうか。当の高尾くんは呑気に「もーらい」とあたしが机に落としたチョコをつまんで口に運んでいる。


「なー、オレの最近の悩み聞いてくんね?」
「……どうしたの?」


急な話題転換。さっきのあたしの反応を見て話を変えようとしてくれてるのだろうか。ホッとしたようなさっきの言葉の真意を問いたいようなもやもやした気持ちのまま先を促す。


「オレ今好きな子いるんだけどさ、たまたまその子の友達から聞いた話によると、その子元カレに未練たらたららしいんだよねー」


どうしたらいいと思う?なんて私に聞かないで欲しい。真っ直ぐな高尾くんの瞳に見つめられたら脳みそがうまく働くはすがない。……つまり、高尾くんは私の今の状況を知っていて……そういうこと、なのだろうか。勘違いとかではなく?


「よく言うじゃん?失恋は新しい恋でしか癒せないって。…だからオレのこと少しは考えてみてよ」


じゃあオレ皿返してくるわ、そう言っていつの間にか完食していた定食のお盆を持って立ち上がった高尾くんは私の頭をぽんぽんと軽く叩いてからお皿の返却に行ってしまった。高尾くんの背中が離れてから机へと顔を伏せる。顔が熱い。あんなにもさらっと告白してくるなんて卑怯だ。高尾くんが戻ってくるまでにこの赤くなってしまっている顔をどうにかしないと。

……今までずっと消せなかった元カレの連絡先を消せる日は、もしかしたらもうすぐそこまで来てるのかもしれない。




新しい恋はいかがですか


20150413


高尾のキャラが迷子すぎて申し訳ない……。

よもぎ

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