僕に下さい
その日は朝から悪い事だらけだった。
咲羽から別れを告げられると言う何とも嫌な夢を見て(しかも理由は犬飼が好きになったとか言うふざけた理由)悪夢から目覚めたと思えば時間は待ち合わせ時間の30分前(本当は2時間前に起きるはずだった)。おかげで朝ご飯は食べそこねるし化粧はいい加減になるし寝ぼけてうっかりヒールでつまずいて駅のホームで転ぶし…!
とにかく最低最悪だったのだ。
「なんか…ボロボロだな…。」
「疲れた。」
しかもうっかり電車を乗り過ごして結局待ち合わせには遅れた。つまり走った。イコール風で髪はバサバサになるしいい加減泣きたい。遅れたのに咲羽には心配されるし。もうやだ泣いていいですか。
「ま、とりあえず行くか。」
スッと差し出された手にドキリと胸が高鳴る。何度手を繋いでも慣れない。少しずつ背が伸びて顔立ちも大人になって更に更にかっこよくなっていく咲羽にあたしはいつだって、悔しいくらいドキドキしっぱなしで。
あたしいつだって不安で、周りにもっともっと可愛い女の子はたくさんいるのにあたしなんかでいいのかっ、て。何年も傍にいるのに傍にいてくれてるのにその考えは抜けなくて変わらない。
「今日どこ行くの?」
「んーまぁ秘密。」
そう言って咲羽はつないでいない方の手の人差し指を唇に当て秘密と言うような仕種をした。あたしは咲羽のこんなちょっと可愛いとこが大好きだ。
日に日に好きなところが増えて毎日咲羽に恋をする。
「はい、チケット。」
「ありがとー。」
着いたのは結構有名な水族館で。入場料はお高めだけど水族館の内容も去ることながら周りにショッピングモールがあったり、観覧車があったりで観光者や親子連れ、もちろんカップルにも人気がある場所だった。
「そういえば来たことなかったね。」
「だろ?でもほら女はこう言う場所が良いって聞いたからさ。」
「…何が?」
「…あ、まぁほら、行こうぜ。」
いつもと少し違う、焦ったような咲羽に違和感を感じずにはいられない。…まさか。…正夢とかないよね?(いや犬飼のくだりはいくらなんでもないと思うけど)え?何?あたしふられんの?今日は最後のデート?やっぱりもっと可愛い他の女の子の方がよくなった?
どんどん浮かんで来るネガティブな疑問達。一度ネガティブになってしまうと止まらない。あたし結構ポジティブな方だと思ってたんだけどな…咲羽の事になるとダメになってしまうみたい。
言われてみれば最近冷たかった気もする。今日だってデート久しぶりな気がしてきた。やだもう。
あたし別れたくない、別れたくないよ。咲羽の事私はまだまだ好きだもん。
「何やってんだよ、行くぞ?」
咲羽の声で我にかえる。あたし…立ち止まっちゃってたんだ。
「…なんかあったのか?」
声にならない声が訴える。別れたくない、別れたくないんだよ。あたしまだまだ咲羽の傍にいたいんだよ。
咲羽が心配そうに顔を覗き込んでくれるけど今のあたしにはそれすら逆効果で。最後だからそんなに優しいの?なんて思ってしまう。
「さ、わ。」
「ん?」
まるで幼子を宥めるかのように優しい声を出して頭をゆっくり撫でてくれる咲羽。この声がこの手が他の女の子に語りかけて頭を撫でるなんて嫌だ。あたしだけの咲羽でいてほしいの。
「わかれる、なんていわ、ないで。」
「…ん?」
「別れるなんて、言わないで。」
「別れる?」
「咲羽が好きなの、大好きなの。他の女の子に渡したくなんてないのーっ!」
「ちょ、待て。落ち着けって。」
「別れたくないーっ!」
「だから落ち着けっ。こっち見ろ!」
…あれ?咲羽に言われて顔を上げるとそこには顔を真っ赤にした咲羽がいた。
「あんま好きとか連呼すんじゃ、ねぇよ。」
「あ、」
やっと自分が叫んだ言葉に気付き顔を赤くする。やだ、恥ずかしすぎる。
「大体別れるってなんだよ。」
「え?だって、」
「むしろ反対だっ、つの。」
「え?反対?」
「あーもう!せっかく色々どうするか考えてたのによ…!」
「え、え?」
娘さんを僕に下さい「え、それって?」
うれしさとおかしさで涙が出て来た。咲羽何見て決めたのもう。それはお父さんに言う言葉だよ、バカだなぁ。
「あーもう!黙って結婚しろ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ咲羽が可愛くて愛しくてなんで命令系なのとか私でいいのかとかそんな考えどこかにいって気付いたら咲羽に抱き着いていた。今日最高の事があるから朝は悪い事ばっかりだったんだね。
「…好き、だから結婚して。」
「はい。」
ずっと傍に居てください。
(後日夢の話となんで勘違いしたかを話して咲羽に大爆笑されたのはまた別の話)
2010/12/11 藍羅
何がなんだかわかりません(笑)ひとつ学びました。勢いで書いてはいけない!←
毎回素敵な桔梗の後に偽物咲羽でほんと申し訳ないです。
蓬>>土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座土下座悪気はない!←
いやほんとごめんその言葉につきる。咲羽とお幸せに!←
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[mokuji]
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