放課後。
いま教室には、日誌を書いている私一人しかいない。
もう一人の週番の人は部活でいなくて。
仕方なく一人で週番の仕事をこなしているのだ。


「はぁ…」


一人、溜め息をつく。
今日もいえなかったな、なんて思いながら窓の外を見た。
あの人はこの空の下、部活である野球を一生懸命やっているんだろうな…。


「あ、やばっ、早く終わらせなきゃ…」


時計を見ると結構時間が経っていたので、急いで日誌を書くことを続ける。
だけれど、どうしても溜め息ばかりがでてしまって。
気分が沈んでいって、文字を書いている手が止まってしまう。


「……泉のバカ」


ポツリ、と呟いてみるけれど、自分以外誰もいない教室に静かに消えていくだけで。
虚しくなった。


「…こんなことなら、」


好きになんてならなければよかった。
そう、何度も思った。
こんなに苦しい思いをして、切なくなったり、うれしくなったり。
彼の行動一つ一つに、一喜一憂している自分がバカみたいに思う。
でも、好きなのだからしょうがないのだけれど。


「なんで、泉なんか……―――」



「俺がなんだって?」



返事が返ってくるはずもないのに、声が聞こえた。
ビックリして教室の前のドアの方を見てみると。


「い、ずみ…っ!!?」
「おー。なにやってんの?」
「な、にって…。」


ほんとはあんたとやるはずの週番の仕事をやってるの!
そういいたいのをぐっとがまんする。


「…泉こそ、部活は?」
「忘れ物したから取りにきたんだよ。」
「へぇ…」


いま、休憩中なんだ。
今日また会えてよかった、なんて思いながら、休憩時間が終わったらもう今日はあえないんだな、と思ったら溜め息がでてきた。


「はぁ…。」
「……なぁ、なんか悩み事でもあんの?」
「え…?」


急に聞かれて、顔を上げる。
と、そこにはいつの間にか目の前に来ている泉がいた。


「――っ…!!」


びっくりして顔を背けるも、泉が近くにいることには変わりなくて。
心臓のドキドキが収まらない。


「おーい、どうした?」
「なっ…、んでもない…!!悩み事もない!」


顔を覗き込んでくる泉から、フイッと顔を背けて日誌を書き始めた。
ああ、ほんとはこんな態度とりたくないのに。
どうしても素直になれない自分に、自己嫌悪した。


「…なぁ、名字ってさ、俺のこと…嫌い?」
「え……」


なんで?
なんで、そんなことを聞くの。
ほんとは、こんなにも泉が好きで。
苦しくて、だけどうれしくて。
どうしたら好きになってもらえるかな、なんて思っていたのに…。


「っ…、うぅ…っ…」
「え、なっ…!!?なんで泣いてんだよ!?」
「泉の、ばか…っ…」
「は…?」


悲しくなって、涙が出てきた。
そんな私に、泉はどうようしていて。
笑ってやりたいけれど、そんな状況じゃない。
もういっそ、この想いを伝えてしまおうか。


「なんで…っ、嫌う、必要があるのよ…っ」
「だっ…て、おまえいつも素っ気ねぇだろ…」
「それはっ…!」


それは、泉を意識してしまって。
まともに話せないからで。
決して素っ気無いわけではないのに。


「じゃあ、なんだよ」
「…っ、泉のこと、好きなの…っ」
「え…?」


今度は、泉が驚く番だよ。
もう、全て言ってしまおう。
失恋しても構わない。
もう、こんなつらい想い、したくない…―――


「泉が、好きだから…、だから、話すたびドキドキして、まともに話せなかったのに…っ」
「――ッ…!!?」
「嫌いなわけ、ないじゃない…!嫌いだったらあいさつも返すわけないでしょ…!!」


そう、いつも自分ではあいさつできなくても、泉にあいさつをされればいつも返して。
それがたとえ、友達と思われていたとしても、私にはすごくうれしかった。


「…ごめん」
「…っ、そ、うだよ、ね…。こっちこそ、迷惑かけてごめん…。」
「っ!違っ…」
「――っ忘れて!いままで通り友達で…―――」


「違うんだよ!!」


「…え…っ」


急に大きな声を出す泉。
ビックリして泉の方をみるも、泉は俯いていて。


「いずみ…?」


静かにそう呼んでみるも、返事がなかなか返ってこない。
もう一度呼ぼうかと思ったら、泉の言葉で遮られた。


「そういう意味で謝ったわけじゃねぇよ」
「…どう、いう意味…?」
「嫌いなのかって、疑って悪かった、って意味だよ」
「……泉…」


「俺も、名前が好きだ。」


「――っ!!?」


一瞬、自分の耳を疑った。
夢なんじゃないかとか、幻聴なのかとか。
でも、そんなことなくて、いま目の前で実際起きていることなんだ。

泉も、私のことを…―――。


「うそ、じゃない…よね…?」
「うそじゃねーよ」


そういってニカッと笑った泉はかっこよかった。
私も泉に釣られて笑みを零す。

よかった、私達、両思いだったんだ…―――。

そう思ったら、泉に急に抱きしめられる。


「ひゃっ、泉…?」
「……マジでよかった…」
「え…?」
「俺、名前に嫌われてんのかと思ったんだからな」
「あ…、」


ごめんね、泉。
恥ずかしくて、素直になれなくて。
いつも素っ気無い態度しかとれなかった。
だから、これからはもっと素直になってみようと思うよ。


「なぁ、キス、していい?」
「なっ…!!ちょ、いま…!?」
「いま。」


私から離れて笑顔でそういう泉の顔は、さっきの笑顔と違って黒く見えた。
抱きしめられるだけでも恥ずかしいのに、キスなんて恥ずかしすぎる。
でも…、泉には勝てない気がして。


「…う、ん…、い、いよ…」


そう答えながら目をぎゅっと瞑る。
すると優しく触れる程度のキスを落とされた。


ゆっくりと目を開けると、うれしそうな泉がいて。
私は幸せになって、泉に抱きついた。



これからも、ずっとずっと、一緒にいられるといいね。

笑顔で、ずっと。





ずっと好きでした。

(ねぇ、休憩時間平気なの?)
(あ、やべぇ…!!モモカンに怒られる…っ!!!)
(あっ、がんばってっ…孝介)
(!…おう!)



10.03.21 再録
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