朝、学校に登校すると教室には既に隣の席の男子がいた。

高瀬準太。

彼はクラスで唯一の男子友達だったりする。
あまり男子と話をする方ではない私は、最初準太と話をすることすらできなかった。
話をするようになったきっかけといえば、私が数学の教科書を忘れてしまったとき。


休み時間に確認し忘れて、授業も始まる寸前。
どうしよう、と困っていた私に、準太が声をかけてきたことがきっかけだった。


『もしかして、教科書忘れた?』
『えっ、あ、う…うん…。』
『じゃあ一緒に使う?』
『い…、いいの…?』
『うん。困ってるときはお互い様、だろ?』


そのときの笑顔が、いまもまだ、忘れられない…―――。




「おはよー、準太」
「はよー。」
「今日は教室にいるの早いね」
「ああ、今日は朝練なかったからな」


へぇー、なんていいながら、自分の席に着く私。
そしたら、なぜか隣からの視線が気になった。


「え、何…?」
「んー?なんか元気ないような気がしてさ」
「え…?いつもどおり、だけど…?」
「ふーん…。ならいいけどな」


そう言って私の頭をぽん、と一回叩く準太。
そのたびに、私の心臓は跳ねあがる。
準太はそのことに全然気付いていないことはわかっていても。


「(…好き、なんだよ…、準太…)」


隣の席で普段と変わらずにいる彼には聞こえないけれど、伝わればいいのに、なんて思いながら心の中で呟く。
最初はただ、仲のいい友達だった。
それがいつの間にか、好き、という感情に変わっていって。
いまでは休日でも、準太に会いたくて堪らないくらいになっている。


「(気付いてくれたら、いいのに…な…)」
「…名前」
「え?」


突然名前を呼ばれたので隣を見ると。
手首を掴まれ、そのまま準太の方へと体を引っ張られる。
え、なに、と思ったら、こつん、と小さく音がして。
とても近い距離に準太の顔が、あった。


「え、な、何…っ!!?」


おでこ同士がくっついていて、なんだろう、この状況。
慌てる私をよそに、準太の顔は離れていった。


「じゅ、じゅん…た…?」
「熱はない、かな。」
「え…」
「元気ねーから熱あるんじゃないかと思ってさ」


でもないみたいでよかった、そういった準太の微笑みに、一気に体中が熱くなる。

なんで、そう無意識に私の心を揺さぶるの?

どんどん膨れ上がる想いに、私はただただ、机に伏せるしかなかった。




らんでいく風船のように
(これじゃあ心臓持たないよ、バカ…)
(好き、って、いえないもんだな…)



10.03.21 再録
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