部活の帰り。
部員の奴らと別れて、一人自宅を目指す。
途中で携帯の着信が鳴り、ディスプレイを見ると。
メール着信の知らせと、先輩の名前が表示されていた。
『いつものところで待ってるから』
そう、絵文字も何も使われない文を見て、またか、と少し憂鬱な気分になった。
でも、先輩には会いたいから今行きます、と返信していつものところに向かった。
いつものところに行くと、先輩が待っていた。
俯いている先輩を見て、すごく愛おしくなる。
「名前先輩、」
「!…隆也、ごめんね、部活帰りに」
「大丈夫です、」
先輩の言葉に微笑みつつ答える。
それでね、と先輩は切り出した。
先輩の悪いくせは、寂しくなると他の男に頼ってしまうことだ。
大抵、あいつと喧嘩したり会えなかったりしたときによく俺は呼び出されるのだが。
「また、ですか」
「うん…。でもっ、一番好きなのは、隆也だから…、」
「じゃあ…っ」
「ごめん、ごめんね、隆也…」
涙を流して謝る先輩を、そっと抱きしめる。
わかってる。
先輩の一番は、いまでもあいつ、榛名だってことは。
だけど、こうやって頼ってくる先輩を拒めないのは、俺が先輩を好きだから。
「隆也、好き、好きだよ…」
「…っ、俺も先輩が、好きです、」
「ありがとう、」
先輩は微笑んで、軽くキスをしてきた。
そんな先輩に今度は俺からキスをする。
啄むようなのじゃなくて、もっと深く。
先輩の後頭部を押さえて、深く深く口づけた。
「ん、んん…っ」
「…っ、名前、」
唇を離し、先輩の名前を呼ぶ。
先輩は息を整えながらも俺の名前を呟いた。
余韻に浸っていると、先輩の携帯が鳴って着信を知らせる。
「あ、…榛名、」
「っ…、出ても、いいっすよ」
「ごめんね、」
先輩は申し訳なさそうな表情で謝り、通話ボタンを押した。
「もしもし、…え、うん、いいよ。」
わかった、すぐいく。そんな言葉を言って通話を切った。
「隆也、」
「呼ばれたんでしょ、行ってください。あいつ行かないとうるさいし。」
「…ありがとう、隆也」
先輩はそう告げて去っていった。
残された俺は、なんとも言えない喪失感があって。
虚しくなる。
なんで、先輩の一番じゃないんだろう。
先輩はまた、榛名のところで傷つくのだろう。
そして俺に縋りにくるんだ。
なんて、馬鹿なんだろう。
そんな彼女を好きな俺も、大概馬鹿なんだけれど。
あなたに溺れ、堕ちていくだけ
(それでも、)
(あなたから離れられない)
報われない隆也が書きたくなったんだ。
10.06.27