ことの発端は、幼なじみであるあいつが俺の部屋にきたことが原因だ。
連絡もせずにいきなりきたと思ったら、ピアスを無くした、と言ってきて。
いつどこで、と聞くとこないだうちにきたときに無くしたのだとか。
だったらすぐ見つかるだろう、と少しの間探したけれど見つからず。
そのあとドラマがあるからとかいって見つからずに帰ってしまった。
『見つけたら絶対に連絡してよね!!』
帰りがけに言われた言葉が、これだ。
連絡も何も、見つかったらするに決まっている。
そして次の日、学校で鞄の中をたまたま見たら見つかって。
通りで見つからなかったわけだ。
すぐに届けるにも他校だからすぐ会えるわけでもない。
今日は幸にも部活はミーティングのみなので無くす心配もない。
とりあえず、放課後に渡すことを決めてどこかなくさないところに入れておこう、と思った。
が、少しぼーっと見ていたせいか手の中のそれは誰かの手に奪われた。
「あーべっ、何持ってんの?」
「は?あ、おいっ…!」
「ピアス?彼女にプレゼント?」
「ちげーよっ」
水谷からピアスを引っ手繰って胸ポケットに閉まった。
油断も隙もあったもんじゃない。
ニヤニヤとしていてウザかったから、一発だけ殴っておいた。
「いってぇ…!阿部って容赦ないよなぁ…」
「お前が阿部をからかうからだろ…」
「だって気になるじゃん。阿部がピアスなんか持ってたらさー。」
しかも女モノっぽい感じだし、そんな水谷の言葉に、ポケットに入れたピアスを思い出してみる。
たしかにあいつがつけてたもんだし女物だよな、と考えていると、花井と水谷が此方を見ていた。
「何」
「いや…、あのピアスってどうしたのか気になって、さ。」
「別に、なんでもねーよ」
「やっぱ彼女にあげるやつでしょ!」
「だからちげーって言ってんだろ」
「えー、じゃあなんなのさ」
不服そうな水谷に説明しなきゃならないのか…、とめんどくさく思いながらため息をつく。
ちゃんとした理由を言わないと解放してくれなさそうだ。
「これは…――、…彼女にとかそんなんじゃねーよ。忘れモンってだけ。」
説明しようとしたが、めんどくさいし別にあいつは彼女ってわけでもねーし。
適当にまとめると、じゃあ俺寝るから、そう言って机に突っ伏した。
水谷の騒ぐ声が聞こえるけれど、それを無視して眠りについた。
放課後、あいつに会ったらすぐに返そう。
いつまでも持ってるわけにもいかねーし。
彼氏からもらったやつっていってたからあいつにとっては大事な物なんだろうな。
なぜか、それがすごくムカついたけれど。
あいつの安心したような、ほっとした笑顔が見たくて。
それを考えたら、どうでもよくなった。
隣の彼女はもういない
(気づくのが遅すぎたのか、それとも)
(彼女に伝える勇気のなかった自分が愚かだったのか)
でも、いまわかるのは。
すべてが遅すぎたという事実だけ
。
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110403