委員会が長引いて、すっかり空は薄暗くなっていた。
急いで帰ろう、と思い歩いている足を早足にすると。
目の前に見慣れた顔が2、3人が自転車を転がして歩いていた。


「水谷と阿部と花井?」
「あれ?」


私の声に水谷と阿部、そして花井が振り向いた。
その中の一人、彼が振り向いたことで、一瞬ドキッとした。


「どうしたの?いま帰りー?」
「うん、委員会で遅くなっちゃって、」
「へぇー、大変だねー。」
「今日はたまたまだけどね。水谷達は?部活?」
「うん、監督の用事で早く終わったんだ」


水谷の言葉に答えつつ、意識は彼の方に向いていた。
阿部、は花井と何か話していて、私の方はみていない。

…当たり前、か。


「あ、なんなら一緒に帰らない?」
「え、?」
「ほら、女子一人だけで帰るのも不安でしょ?」


考えていたら水谷がいつもと同じ調子の声で聞いてきた。
なんだか野球部の邪魔しちゃうしどうしよう、と考えていると、意外な人の声が聞こえた。


「別に俺らは気にしねーけど。おまえは?」
「あ、えと…みんながよければ、」


阿部の言葉にびっくりしながらも、結局は一緒に帰らせてもらうことを伝える。
みんなは快い返事をしてくれて、たわいない話をしながら歩いた。
学校でのことだとか、部活のことだとか。
部活のことは聞いているだけだったけれど、とてもおもしろくて。
今度練習を見に行こうかな、なんて思った。


「じゃあ、俺こっちだから」
「あ、私も」


途中の曲がり道で、阿部が方向を指差して言う。
偶然にも、私も同じ方向で。
水谷と花井にじゃあね、といって別れた。
そのまま無言で歩きだす私たち。
その空気に耐え切れず、先に口を開いたのは私だった。


「野球部、楽しそうだね」
「は?あー、まぁお気楽なのは水谷あたりだな」
「あはは…。…でもいいなぁ」
「何が?」
「大変そうなんだけど楽しそうなところ、かな。」


そういう風に熱中できるものがあってうらやましい。
私には、そんなに熱中出来るようものがない気がするから。
それを阿部に言うと、少し何か考えるような表情をした。


「おまえだって、好きなことくらいあるだろ」
「え?」
「歌、好きなんだろ?」
「あ、うん、でもなんで…」
「この間水谷と話してたのが聞こえた」
「そ、っか…」


正直、びっくりした。
まさか阿部が聞いてただなんて。
それだけじゃなくて、そのことを覚えていたことにも、だ。
数日前のたわいない話で、しかも阿部は私とあまり話さないし興味がないみたいな感じだったから。

でも、驚きだけじゃなくて少しうれしくもあって。
私のことを少しでも、小さなことでも知っていてくれた、それだけでもう、うれしかった。


「ありがとう」
「なんで礼なんか言うんだよ」
「そういってくれてうれしい、ってことだよ」


そういって微笑んで、空を見る。
少しでも、君との距離は近づいているのかな。
そうだといいな、と星の降るような夜空に向かって呟いた。




ほんの小さな幸せ



◎君に恋する1年○組さま 提出
ありがとうございました!

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