「ほおずき、あれ。」
「ええ、あれですよ。」

えんまでん?と小首を傾げる燐に頷く。
すると丁度裁判が終わったところらしく、扉が開いて中から獄卒に引かれて亡者が出て来ました。

それを興味深そうに見る彼女に、あれは生きている時に悪事を働いた者の末路です、と説明すれば、怯えたように着物にしがみついてきます。

「燐は鬼なので、悪いことをすれば烏天狗警察に捕まりますよ。」

くれぐれも悪さをしないように、と続ければ、わかった、と首を縦に何度も振ります。
その様子が微笑ましく思えて、思わず頭を撫でてしまいました。

「では、行きますよ。」

扉の側にいた方に開けていただいて、中へ。
数日振りの閻魔殿は自宅に帰ってきたような気がして、やはり落ち着くものです。

「あ、鬼灯君。」

おかえりーと暢気な声を上げる閻魔大王に、ただいま帰りましたと告げる。
一度荷物を置こうと、そのまま部屋へ足を向ければ、ちょっと待ってと止められました。

「その子どうしたの?」

まさか鬼灯君の子ども…!?などと戯けたことを抜かした大王に、金棒を一発見舞ってから、拾いましたと言えば、目をこれでもかと言うほどに見開いて驚かれる。
ちょっと、そんなに驚くことでも無いでしょう。

「いやいや大したことだからね。」

君がそうやって仕事以外で他人の面倒を見る姿ってあんまり見たことないからさあ…。

したり顔で何度も首を上下に降る大王に、もう一発金棒を見舞って。

「放っておけなかったんですよ。」

現世と地獄、天国を繋ぐあの門の近くで世の中を達観したような目で私を見てきた彼女が。
どこか、昔の自分と重なって見えた彼女が。

放っておけなかった。

多分、これが一番しっくりと馴染む。大王に言ってから気付いたことが少し癪だが、確かに私は燐をあの場に置き去りに出来なかったのだ。

そう告げれば、そっかと大王は嬉しそうに笑っていました。


 

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