早く早くと急かす燐を宥めつつ、食堂へ。
彼女の背よりも高い位置にあるカウンターが見えるように持ち上げて、どれが食べたいかと問えば、たった一言、ごはんと言う。

「ごはん…ですか。」
「うん。」

たきたてのあったかいごはんがたべたい。

おかずはどれがいいだとか、デザートを食べないのかだとか、私たちの前に並ぶ大王が振り返って聞いてきても、燐は首を傾げるばかり。

「おかず…?」
「ええ。野菜だったり魚だったり肉だったり。」

何かごはんと一緒に食べるものがあるでしょう。

すると燐はぽつりと。

「そういうのはりんみたいなこはたべちゃだめっていわれたよ。」

だから、むぎとざっこくとおやさいのしんとかはっぱくらいしかたべたことないよ。

当たり前だという顔で答える燐ですが、流石にその扱いは如何なものか。大王も驚いたまま、固まっています。

「燐、貴方だって一人の鬼。自分が食べたいもの、やりたいことをやる権利があります。」

当然、野菜も魚も肉も他の何もかも。食べていいんです。

そう言えばほんとう、と問うてくる燐にこくりと一つ頷いて。

「じゃあおさかなとおにくがたべたい。」

彼女は小さな声で言いました。

私たちのやり取りを聞いていた食堂の従業員の方が気を利かせて、燐専用にハンバーグと白身魚のフライに刻んだ野菜を少し添えて、炊きたての真っ白なご飯に少しだけふりかけをかけて爪楊枝で作った旗を立てた、お子さまランチを作ってくださいました。

それを彼女に持たせてやって、私も自分の分の定食を手に席に着きます。
手を合わせていただきます、と言えば燐も真似をしていただきます、と言って。お箸を持って一口、ご飯に手を着けました。

「…おいしい…。」

そう嬉しそうに顔を綻ばせて、次々と箸を運ぶ燐を見て、大王も嬉しそうにしています。

「良かったね、鬼灯君。」
「…ええ。」

気に入ってくれて良かった。

ほっと、一安心。
口の周りをソースで汚す燐の口元を拭いながら、全てを平らげた燐がおかわり、と声を上げるまで、ずっと彼女が食べる様子を眺めていました。


 

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