「先生、ありがとうございました。」

病院のロビーでワシと里香はお世話になった先生へ頭を下げる。
今日は里香の退院の日。彼女が事故にあってからちょうど2ヶ月目だった。

「里香さんも、何かあったらすぐに連絡してくださいね。」

ではこれで、と忙しそうに仕事へ戻っていく先生の後ろ姿へ頭を下げ、ワシは里香を誘って自分の車へと向かった。

車に乗り込み、適当にBGMを流す。ワシは運転席、里香は助手席といつも座っていた定位置に。
それからワシはゆっくりと車を発進させた。

「家康さん、お家まではどれ位かかるんですか?」
「そうだな…大体45分くらいか?」

そういって笑えば、彼女も遠いのにすみませんと言いつつも、笑ってくれる。

久しぶりの恋人らしい会話。

それが楽しくて、永遠にこんな平和な時間が続けばいいのになどと思ってしまう。
ふと思い立って、彼女へ提案してみた。

「そうだ…里香、このままどこかでメシを食べてから帰らないか?」

お前の退院祝いを兼ねて、と言えば、申し訳無さそうにしながらも嬉しそうに頷いてくれて。
そんな笑顔も事故の前は一体いつ見ただろうかと何度目か分からない自己嫌悪に駆られて。

このまま里香の記憶が戻らずに、2人でどこか遠い場所へ行きたいなどと不謹慎にも考えてしまった。



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