手術から数日。
事故の際にできた無数の傷は大方癒えた。術後の経過観察の為に未だ彼女は病院に入院しているが。

「里香、調子はどうだ?」

そう声を掛けながら病室の扉を開ければ、笑顔でワシを迎えてくれる彼女。

「いつもありがとうございます、家康さん。」

そう頭を下げる彼女へ構わないと手を振る。

「先生が言っておられた通り、明日には退院出来るそうだ。」

先刻彼女の担当医とした会話の内容を伝えれば、至極嬉しそうな彼女。その笑顔を見て、彼女のこの笑顔を見たのはどれくらいぶりだろうとぼんやりと考える。
そんなワシに対して彼女は楽しそうに話した。

「今日は三成さんと半兵衛先輩と秀吉先輩と一緒にいたのを思い出しましたよ。」
「そうか!三成や半兵衛殿や秀吉公が聞いたらさぞかし喜ぶだろうな。」

彼女が目覚めてから判ったことが2つ。
1つは、彼女は完全に全ての記憶を無くした訳ではないということ。無論、彼女の周りの人間関係は忘れているものの、普通に生活する分には困ることはない程度の記憶は残っていた。
それからもう1つは、彼女が眠っている時や頭痛に襲われている時に昔の記憶を思い出すということだ。今日の三成達との記憶のように、少しずつ少しずつ、記憶は取り戻し始めている。

「また何か思い出したら話してくれ。」

そう彼女の頭を軽く撫でれば、はいと頷く彼女。
これは彼女とワシとで決めた約束だ。彼女の病室を訪れる度に、彼女は思い出したことを少しずつ話す。そしてワシも出会った出来事を話すのだ。

こんなにも彼女とたくさん話したことが今までにあっただろうかというほどに、彼女と記憶を共有するこの時間はワシにとっても重要な時間だった。



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