一人でいるとどうしても考えてしまう、あの日のこと。 ─…あの日もいつものように夜遅く帰宅した。ワシが帰ってきたのに気付き、里香が笑みを浮かべ「おかえり」と玄関までやってくる。 「ご飯作ったけど…食べる?」 「いや、外で食べてきた。」 そう告げれば彼女は悲しそうに顔を歪めて小さく頷く。 そんな彼女の様子に気付かないまま、ワシは自分の部屋へと向かった。 今日は一段と疲れた。早く休みたい。ただそれだけを考えて。 「家康、明日は…?」 消えるような彼女の小さな声。それすらも煩わしいと感じる。どうして早く休ませてくれないのかと、イライラした口調で一言仕事だと答える。すると彼女は何も言わず、去っていく音だけが聞こえた。 そこからワシはすぐにベッドに入り、眠った。その間に彼女が何をしていたのかは知らない。 ただ、夜明けにけたたましく携帯が鳴ったのに起こされた。 「一体誰だ?こんな夜明けに。」 イライラと電話に出る。その直後。ワシは一気に目が覚め、携帯を落としかけた。 「─もしもし警察ですが。里香さんが先程事故にあい、現在〇×病院に運ばれて──」 その言葉を理解した瞬間、頭から冷水を浴びせられた気がした。 ワシは、通話中にも関わらず携帯を放り投げ、財布を掴んで部屋を飛び出した。 すると、玄関に一枚のメモと鍵が置いてあるのに気付く。 “さようなら家康” メモは涙で濡れていた。 「里香っつ…!!」 ワシはメモを握り締め、運良く近くを走っていたタクシーに乗り、〇×病院までと短く告げる。 タクシーの運転手はワシの様子に何事か不思議がっていたが、大して聞いてくることもなくそのまま病院まで車を走らせた。 3/10 ←|→ [Back] |