後悔先たたずという言葉があるが、あれは実に的を射ているとワシは思う。

「何故こうなってしまったんだろうな…―。」

考えれば考える程、後悔という言葉の底なし沼にズルズルと足を絡め取られる。

彼女は何も悪く無かった。
責任は全てワシにある。

酷い自己嫌悪に陥りながらも、手術室の赤いランプが消えるのを今か今かと待っていた。
彼女が出てきたら、すぐに駆け寄って謝らなければ。嗚呼今こうしている間にも、代わりに仕事に滞りが無いように取り計らってくれている三成にも。

「里香…。」

何度も何度も名を呟く。
それだけで現状がすぐに打破される訳ではないが、そうでもしなければワシの気が狂いそうだった。

とうに日付は変わっている。
もうすぐで朝の日差しが窓からこの病院内へも降り注ぐだろう。

窓へ向けていた視線をまた手術室の方へ戻す。すると、赤く煌々と光っていた手術室のランプが消え、ベッドに寝かされた彼女が出てきた。

「っつ!!」

急いでそばに駆け寄り、彼女の顔を確認する。
どうやら麻酔が未だ効いているらしい。すやすやと安らかな寝息を立てていた。

その様子はワシに一気に安心感を与えたと同時に彼女の頭に巻きつく白く眩しい位の包帯は、自分の愚かさを如実に表していた。
それから彼女は病室へと運ばれ、それを見送った直後に手術を担当した医師が手術室から出てきた。

「先生…。」
「一応、手術は成功です。」

医師に感謝の念を込めて頭を下げる。すると先生は「ですが…」と言いにくそうに言葉を繋げた。

「ですが…里香さんは記憶障害を負っている可能性があります。」
「記憶障害…?」

滅多に聞くことのない言葉に上手く反応できず、オウム返しに聞き返した。
そんなワシの反応も、先生は見越していたのだろう。小さく頷いてまた口を開いた。

「ええ…俗に言う“記憶喪失”のようなものです。」

嘘だ、何かの冗談だ。

先生の顔を見る。
だが、その顔はとても冗談を言っている様子ではなく、ワシは目の前が真っ暗になる感覚に陥った。



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