「里香!」

倒れた彼女を寝室まで運び、ベッドへ横たわらせてから早数刻。
ワシは里香の側を離れず、ひたすらに名を呼び続けた。
そうでもしていなければ、あの日のようにまた彼女を失う気がした。

途中悪い夢でも見たのか、カタカタと震える彼女の手を握りしめ、柄にも無く神に祈ったりもして。今彼女は落ち着いて静かに眠っている。

規則正しく上下する彼女の胸に安心した途端、自分の喉が渇いていることに気付いて、渇きを癒そうと里香の手を離して台所へ向かおうとした。

「家…康……。」

背後から聞こえた小さな声。驚いて振り向けば、ゆっくりと里香の目が開いた。

「里香…?」

恐る恐る彼女を呼ぶ。すると、目覚めた彼女が涙を流しながら「ごめん…。」と謝った。

「ごめんね…家康…。私…いっぱい迷惑かけちゃったね…ごめんね…ごめんね…。」

何度も何度も繰り返される謝罪の言葉。それに胸が痛んで、無言で彼女を抱きしめた。

「家康…?」
「謝るべきはお前じゃない、ワシだ。すまない里香。ずっと寂しい想いをさせていたのだな…。」

そう言って腕に力を込める。

「お前を失いかけてからようやく気付いた。ワシは…何と愚かなんだろうな……。」

自嘲気味に笑えば、里香は首を振りワシの体から少し離れた。

「もう…いいよ。私が色々忘れていた間、ずっと家康は私の傍にいてくれたでしょ?もう…それだけで良かった…。」

頬を薄く染め、そう言って微笑む彼女に感謝してもしきれない程のありがとうの気持ちややっぱり彼女が好きだというが溢れて、全部の気持ちを込めて言った。

「ありがとう…里香。」


end.



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