──ここはどこ…?

フワフワとした、掴みどころの無い感覚。
いつの間にか倒れていた体を静かに起こすと、視界に映ったのは真っ白な世界。
右を見ても左を見ても、障害物なんて何も無くて。ただただ、真っ白な世界が広がっていた。

「…早く帰らなきゃ…。」

そう呟いた途端に浮かぶ疑問。

──どこへ帰るの?

「私の家に…。」

疑問へ答えるようにまた呟く。

──どこにあるの?

再び襲った疑問。
私はそれに答えることが出来なかった。

「あ…れ……?どこにあるの…?」

思い出せない。頭の中に霞がかかって、ぼんやりとしたものしか見えない。

──貴女は誰?

「私は…。」

そこまで言って、気が付いた。自分が…自分の名を言えないことに。

「私は誰?そしてここはどこ?」

先程まで脳内に浮かんでいた疑問を口に出す。すると、頭の中の霞が更に濃くなった気がして。それが怖くて、怖くて。
カタカタと震え出す自身の体を抱きしめた。

「怖い…怖いよ……誰か…。」

恐怖で涙も出てきた、その時だった。

パサリと小さな音を立て、1冊の本が落ちてきた。無意識に涙を拭い、その本へ手を延ばす。

「これは…?」

拾い上げ、パラパラとページを捲ってもどこも真っ白で何も書かれていない。でも、私は途中で捲るのを止められなくて。そうして最後のページへたどり着いた時、初めて何かが書かれていたのに気付いた。

声に出してその文字を読む。

「里香…──。」

その途端今まで白いだけだった世界が静かに、少しずつ、崩れ始めた。



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