──ここはどこ…? フワフワとした、掴みどころの無い感覚。 いつの間にか倒れていた体を静かに起こすと、視界に映ったのは真っ白な世界。 右を見ても左を見ても、障害物なんて何も無くて。ただただ、真っ白な世界が広がっていた。 「…早く帰らなきゃ…。」 そう呟いた途端に浮かぶ疑問。 ──どこへ帰るの? 「私の家に…。」 疑問へ答えるようにまた呟く。 ──どこにあるの? 再び襲った疑問。 私はそれに答えることが出来なかった。 「あ…れ……?どこにあるの…?」 思い出せない。頭の中に霞がかかって、ぼんやりとしたものしか見えない。 ──貴女は誰? 「私は…。」 そこまで言って、気が付いた。自分が…自分の名を言えないことに。 「私は誰?そしてここはどこ?」 先程まで脳内に浮かんでいた疑問を口に出す。すると、頭の中の霞が更に濃くなった気がして。それが怖くて、怖くて。 カタカタと震え出す自身の体を抱きしめた。 「怖い…怖いよ……誰か…。」 恐怖で涙も出てきた、その時だった。 パサリと小さな音を立て、1冊の本が落ちてきた。無意識に涙を拭い、その本へ手を延ばす。 「これは…?」 拾い上げ、パラパラとページを捲ってもどこも真っ白で何も書かれていない。でも、私は途中で捲るのを止められなくて。そうして最後のページへたどり着いた時、初めて何かが書かれていたのに気付いた。 声に出してその文字を読む。 「里香…──。」 その途端今まで白いだけだった世界が静かに、少しずつ、崩れ始めた。 8/10 ←|→ [Back] |