課題をしながら寝てしまったらしい。気付けば空は明るみ始めていた。 二、三度瞬きをすれば、はっきりとしてきた視界。そこに入ってきたのは、ノートと教科書が広げられたままの自分の机の上だった。 政宗から留学の話を聞かされたのは夏の初めの頃。 それから時間はあっという間に過ぎ去って、今では残暑が厳しい季節になってしまった。 目を閉じて、ため息を一つ。 昔からそうだった。 今も昔も彼の背中を追うだけの私と、前を向いて自分で道を切り開いていく彼。 自然と開いていく二人の間は、今ではもう埋めきらない程開いている。 「政宗…。」 ─まだ、一緒にいたいよ。 それは願っても叶わない夢。 ツキンと痛む心を抱えて、私はもう一度忍び寄る睡魔に身を委ねた。 ──「政宗、はやいよーっ!」 「ハッ、飛鳥がおそいだけだぜ!」 それは夏のある日のこと。 兄さんに連れられて、私と政宗は少し遠くの避暑地で有名なところへ遊びに来ていた。 広い草原で、政宗と2人でおいかけっこ。足の早い政宗に追いつくのは難しくて、半泣きになりながら追いかけた。 「政宗ぇーっ!」 どんどん開く2人の距離。懸命に走るも、その差は開いていく。そんな時に少し力を抜いた私が足元を取られて転んだのは、当然の結果。 じわり。 膝に血がにじむ。 政宗も捕まえられなければ、転んでケガをして。踏んだり蹴ったりで自然と目に涙が浮かぶ。 「飛鳥っ!?」 すると、大分前を走っていた政宗が私のところまで引き返して来てくれて。彼の持っていたハンカチで、私の涙を拭いてくれた。 「軽く擦っただけだ。すぐ治る。」 遠くから見ていた兄さんも私のところへ来て、膝に絆創膏を貼ってくれた。 「飛鳥、痛くねぇか?」 「うん、だいじょうぶだよ。政宗、ありがと。」 草原からの帰り道、政宗はずっと私の手を握ってくれた。── 夢で思い出したのは、楽しかった幼い日のこと。 あの頃は何でも素直に言えていたのに。 今では素直になれなくて、肩肘張ってしまって。でも、やっぱり彼は今でも優しくて。 だから、留学のことも早く伝えてくれたんだろう。 英語が得意な彼の、夢。 応援しなきゃ。 そう思えば思う程、胸が痛む。 何でも素直に言えていた、あの夏の日に戻りたい。 ぽたりと雫が零れた。 君と過ごした夏の記憶 [Back] |