─わたしね、大きくなったら政宗のおよめさんになるんだ!─ 久しぶりに夢に見たのは、今となっては遠い遠い、昔の記憶。幼い彼女と幼いオレの交わした幼い約束。 それが懐かしくて余韻に浸っていたら、いきなり頭上に何かが降ってきた。 「痛ぇ!?」 「いい加減、起きろ。」 微かな痛みに顔をしかめつつ、伏せていた目を見開けば、分厚い英和辞典を片手にオレを見つめる飛鳥がいた。 「辞書で人の頭、殴んなよ。」 「ショート終わっても寝てる政宗が悪い。」 言われた言葉に驚いて体を起こして周囲を見渡せば、オレ達以外の人間はおらず、窓から夕日が射し込んでいた。 「Oh…short home roomが終わってから何分経った?」 「んー…2時間くらいかな。」 おかげで今日の課題が全部終わったと笑う飛鳥。 「Sorry.待たせちまって。」 「別に。疲れてたんでしょ?昨日も夜遅くまで部屋の電気ついてたし。」 オレの父親の経営する会社で飛鳥の兄貴が働いている関係で、所謂幼なじみの関係のオレ達は家も隣同士。彼女の部屋からオレの部屋が見えるのと同じように、オレの部屋からも彼女の部屋が見える。 「…見てたのか。」 「覗きみたいに言わないでね。私も勉強してただけだし。」 勉強勉強って受験生って大変だね、なんて言う飛鳥に頷きながら立ち上がり、窮屈な体制で寝ていたおかげで軋む体を伸ばす。 それを見計らって彼女は自分の鞄とオレの鞄を取り上げ、一言帰ろうよ、と教室のドアの方へ歩いていった。 「あぁ。」 何となく残る眠気を振り払い、廊下の少し先で待つ飛鳥を追った。 脳内に微かに残る、幼い頃の約束の記憶の続きを辿りながら。 ─「わたしね、大きくなったら政宗のおよめさんになるんだ!」 「じゃあオレは飛鳥をハニーにしてやるよ!」 「やくそくだからね。ぜったいだからね?」─ そう言って、幼い彼女は幼いオレの頬にその小さな唇を当てた。 君は覚えてるかい [Back] |