全く不思議な女だった。

「三成様、今日は空が綺麗ですよ。」
「三成様、今日は城下で有名なお菓子を買ってまいりました。」
「三成様、庭の花が見頃です。」

事ある毎に、私に向かってどうでもいいようなことばかりを話してくる。

最初は鬱陶しかったそれも、気付いた時には当たり前になっていて、自然と今日はまだ来ないのかと心待ちにしている私がいた。

それと同じ頃、部下に討伐兼密偵隊として先に東に赴く命を出した。
その中には奴も含まれていた。

「三成様、必ずや三成様のお役にたてるよう、皎月めも頑張ってまいります。」

胸に私の紋を抱いた甲冑を纏い、いつものように告げる奴に何も言わずに頷いた。


それから幾月か経った日。
奴の部隊は無事に任務を終えて戻ってきた。
また賑やかな日常が戻ってくる、とため息を吐きたいような気分になりつつも、奴がまた私の元へ来るのを待ち遠しく思っていた。

だが、奴はなかなか来なかった。任務で負傷した兵士達の傷も大方癒えてきた。
何日経とうが姿を見せない奴に次第に腹が立ち、定期報告に来た部下に聞いた。

「先日討伐へ向かったあの女はどこだ?」
「三成様……あの…皎月は……。」

そこから言葉が聞こえなくなった。
詳しく状況を説明する声も耳へ入らず、頭の中を駆け巡るのはたった1つの言葉。

認めない。
認めない。
奴が“行方不明”など─────。


それからどれ程の時間が経っただろうか。奴がいた頃は初夏で暑かったのに、いつの間にか冬の寒さも厳しくなっていた。

私は火鉢を熾して縁側に座る。
ここは奴と最後に会った場所。そして、奴が綺麗と言った庭も見える場所。

そこで書物を読んでいれば、いつの間にかうたた寝をしていたらしい。
高かった日が少しばかり西へ傾いていた。

「──三成様。」

ふと聞こえた声。はっと声の出所を探す。

「三成様、ただいま戻りました。」

再度聞こえた声を頼りに庭を見下ろした先には、数ヶ月前に行方不明と告げられた奴がいた。

「帰還が遅くなり、申し訳ございません。任務の際、敵方の罠に嵌り大怪我を負ったのを近くの農民達に助けていただいて………。」

今は冬で寒いだとか、自分が裸足だとか、奴が満身創痍だとか、そんな些細な事に構わなかった。
ただ、奴が戻ってきた事で心中がいっぱいだった。

「二度と…私の前から姿を消すな。」

女を胸に掻き抱いて、そう言うのがやっとだった私など、全く、荒唐無稽だっただろう。


あの子の傍にいたいと切望

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