どこか遠くで勝鬨を上げる声が聞こえた。

これで全てが終わった。
今の私の手元には、何も無い。
敬愛する秀吉様も半兵衛様も、友であった刑部も。この戦へ向かう過程で全て喪った。

「私は今後どうすればいいのですか、秀吉様…。」

問うても答えてくれる声など最早ない。
ならばいっそ、ここで果てようか。家康によって治められる日の本で、たった1人で生きていくなど出来ないことは分かりきっている。

そうと決まれば今すぐに。
向こうへ行けば、秀吉様も半兵衛様も刑部も皆いることだろう。
大量の返り血を浴びて、元の色などとうに分からなくなっている己の得物を鞘から抜いた。

「刑部…半兵衛様……秀吉様………。」

私も其方へ。

ひとおもいに斬ってしまおうと勢いよく振りかざした刀身。
私の体へ刺さる刹那、何か黒い陰が横切った。

「…っ!?」

驚いて見れば、それは誰かの腕だった。

「みつ…な…り……さま…っ!!」

苦痛に顔を歪めながらも私の名を呼ぶのは、女。
それを見た途端、頭に血が上るのが分かった。

「何故私の邪魔をする!貴様が止めなければ今頃私は…!!」
「…止めなければ…三成様はそのままご自害なされたでしょう…?私は…三成様に…生きていただきたいのです……。」

所々苦しそうに息を吐きながら、ゆっくりと喋る女。
よく口の回る奴だと、頭のどこか冷静な所で思った。

「ふざけるな!」
「ふざけてなど…おりませぬ…!私は…我が主が生きていらっしゃったならば…かように三成様をお止めになっていたであろうと…。」

そう言う女を見れば、胸元にははっきりと対い蝶が押してあった。

返す言葉も見つからず、無言で刀を奴の腕から抜き、苦痛に顔を歪める女の腕からとめどなく溢れる鮮血を止めようと、自分の羽織の一部を割いた。

「三成様…。」
「黙っていろ。」

そうして何刻過ぎただろうか。次第に血の止まってきた女に聞いてみた。

「女…私はやり直せるのか…?この…何もかもを失った、絶望の中で…。」

私の疑問にハッとしながらも、女は目尻に涙を浮かべて微笑んだ。

「今の三成様なら必ずや出来ます…!例え今は絶望の中でも……必ずや。」


しあわせになれるはず

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