陣羽織を羽織って腰に得物を差す。支度を終えた頃合いを見計らった刑部に呼ばれて、自軍の者達が集まる大広間へ。

「布陣はどうなっている。」
「当初の予定通り、滞りなく。」

既に大名達は陣を敷き終え、決戦の時を待つばかり。
部下の報告に一つ頷いて、最後の軍議を解散させた。

「石田様。」

部屋から出て行く武将の波に逆らって、皎月が近付いてくる。

「大谷様も、ご一緒に。」

刑部、と呼べばここにおる、と輿が私の隣に並んだ。

「今日のこの日まで、貴様の知る歴史と変わりは無いのか。」
「ええ。多少の違いはございますが、大きな流れに変化はございません。」

東に付いた大名家も、西に付いた大名家も、決戦の地も、その日取りも。

「ぬしが言うなら確かだろうよなァ。」

呟く刑部に頷く。
そこまでお二方からの信用を得て、嬉しい限りにございます、と頭を垂れる彼女に、話の続きを促した。

「この戦、半日で全てが決します。勝者は東軍、徳川家康。」

彼女の言葉に手に力が入る。
隣の刑部も数珠を構えたのが視界に入った。

「ただし。」

と、そこで言葉を区切ったうた。見れば、唇を噛み締めている。

「ただし、それは小早川秀秋が東軍に寝返ったからによります。」

やはり金吾は裏切りおったか。
刑部の問いに、皎月ははい、と答えた。

「小早川秀秋の内応に触発された、脇坂、朽木、小川、赤座の各人によって西軍は内部崩壊いたします。」

つまり、小早川様が内応するのを防げば、数で勝る西軍に勝機がございましょう。

そう締めくくった彼女に刑部の笑い声が響いた。

「ぬしは誠、いい女よ。」

われは先に陣を敷き、金吾を抑える策を講じる。
去り際に皎月の頭を撫でて、刑部も部屋から出て行った。

「皎月。」
「はい。」

近寄る彼女を胸に抱く。
そのまま彼女の肩口に顔を埋めて一息吐いた。

「私が勝てば、貴様にとっての過去は変わる。」

貴様は良いのか、と問うより先に、良いのです、と彼女が笑った。

「良いのです。先の世にどのような影響を及ぼすのかを考慮するより、貴方が勝って生き延びることの方が私にとって最も重要なのですから。」

全く、身勝手な女でしょう?
笑う皎月を抱く腕に更に力を込めて。呟くように告げた。

「貴様は、いい女だ。」

全く。


れきしに逆らう私たち

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