「お侍さん、どうしたの?」

思えば、それが奴が私に掛けた第一声だった。
その時の私は敗軍の総大将の汚名を着せられたばかり。随分と奴に当たり散らしていた、と後々刑部に教えられた。

「皎月。」
「なあに、三成様。」

何かご用ですか、と問われてはっと気付く。昔を思い返していたら、無意識に奴を呼んでいたらしい。
なにもない、と小さく告げて、部屋から立ち去る奴の後ろ姿が消えるまで見送った。


天下を二分したあの戦から早数年。東軍の勝利に終わり、絆を掲げる奴の治世となった日の本は、平和の二文字が似合う程までになった。

西軍の、敗軍の総大将──京の河原で斬首されると一時は覚悟したものの、依然生き長らえている。
もっとも、仕置きとして西軍の拠点であった大阪城は召し上げられ、本来の居城である佐和山城での蟄居が命じられてはいるが。

「三成よ、ぬしは変わったな。」
「何を戯けたことを。私は何も変わらん。」

特徴的な笑い声を立てて、刑部が言う。
それよりも貴様はいつからそこに居たのか、と問うより先に初めから居った、とまた笑われた。

「ぬしは変わった。すっかりとな。」

以前ならかように蟄居なぞせず、とうに自ら腹を切っておったであろ。

そう言われれば、確かに以前の私ならば家康の治世に生きるよりも死を選択していただろうと思う。
秀吉様と半兵衛様を弔うことは毎日欠かさないが、以前よりも秀吉様秀吉様って言わなくなりましたね三成様、と左近にも言われた。

全く、私は変わってしまったのか。

「大方、皎月のせいよ。」

奴に逢ってからぬしは変わった。
傷を負い、満身創痍のぬしを皎月が介抱したあの日から。
どうしたの?と、奴から問われたあの時から。

「そうか…。」

そうなのか。
ならば。

「皎月以外の女を側に置こうとは思わんこの気持ちは何だ。」

すると刑部はヒヒッと笑い、言った。

「自分で考えやれ。」


なくしたはずの心が揺らぐ

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