「ねえ、三成。どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?」

彼女の問いに、どきりと胸が鳴った。

そんな私のことも見越していたのだろうか。くすくすと小さな笑い声を立てて、目が見えないのに何でって思ってるでしょ、と言われた。

「三成は、分かりやすいよ。」

そう言って此方に伸びてきた彼女の手を握る。

「…そんなに私は分かりやすいか。」
「うん。」

繋いだ手を頼りに、此方へ寄り添ってくる皎月を抱きしめた。

「見えなくてもね、何となく分かるんだよ。足音とか雰囲気とかで。」

それに、三成のこと、大切だもん。

「そうか。」
「そうだよ。」

そしてまた響く、笑い声。
ひとしきり笑い終えたのか、ふと止まった声を不思議に思い、腕を緩めて彼女の顔を此方へ向かせた。

「どうした。」

問えば、ゆっくりと口を開く。

「…どうなっても、離れないからね。」

此方は私の名の下に、彼方は奴の名の下に。各地に散らばる兵達を巻き込んで、日の本を東西二つに割る大戦。
その終結は、どちらかの大将が倒れた時。

「日の本中が三成の敵になっても、私は離れないよ。」

だから、今、刑部と話している案は破棄してね。

そう言われてはっとした。

「…知っていたのか…。」

それは刑部と密かに話していたこと。彼女を戦に巻き込みたくないが為に、秘密裏に立てていた、彼女を大阪から離し、九州の島津あたりに預ける計画。

私の呟きにこくりと頷き、背に腕を回してきて。

「今日はそれを言おうと私のところに来たんでしょ。」

だから、最初に悲しそうな顔してた。

そこまで言い当てられ、思わず頬が緩んだ。
ああ、全く。彼女には適わない。

「皎月。」

呟くように名を呼んで。
自らのものとは違う、長くて艶やかな黒髪に指を絡めて、掬った一房に口を付けた。


にくしみさえも霞む

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