「行ってらっしゃいませ、三成様。」

城門の前で女中頭が述べ、警護の為に残した兵もそれにあわせて頭を下げる。
それを一瞥し、あの方を探す。
戦に出る時はいつも見送りに姿を現されるが、今日はまだ一度も見ていない。珍しい、と近くにいた兵に問うた。

「皎月様は。」
「御方様は…。」

困ったように眉尻を下げて答える兵の声を遮るように響いたのは、決して大きくは無いがよく通る声。

「──三成。」

真っ直ぐに私を見つめるその双眸は、秀吉様と共に戦略を立てる時のあの方のそれによく似ていた。だが、今はその奥の方で不安が揺れているのが見て取れる。
小さく断りを入れ、近付いてきた体をゆっくりと引き寄せて肩に触れてみれば、小さく震えていらっしゃった。

「三成…っ……。」

また私の名を呼ぶ声は、涙と共に嗚咽に消えていく。

「泣かないでください…私は貴女が泣くとどうすれば良いのか分からない…。」

まるで赤子をあやすかのように、皎月様の頭に手を置く。
すると、僅かに落ち着いたのか、皎月様はゆっくりと口を開かれた。

「…今回の戦で三成は決着を付けるつもりでしょう?…きっと向こうも同じ事を考えてる…。…それなら…今まで以上に激しい戦になる…。だから…だから……っ!」

そこで言葉を切り、また涙を流す皎月様。
切った言葉の先は容易に読める。元々は半兵衛様の妹君として、また、豊臣軍の一武将として戦場を駆け巡っていらっしゃった方だ。此度の戦がどのようなものであるのか、そして、どれほど過酷なものとなるのか、十二分に分かっていらっしゃるのだろう。
だからこそ、その不安は他よりも大きい。

だが。
あの時。
私の正室として輿入れしてくださるとおっしゃった時。

私も秀吉様や半兵衛様へ誓ったのだ。

だから。

揺れるその背中へ手を伸ばし、抱き締めながら呟いた。

「よくお聞きください、皎月様。私は決して死にません。貴女を一人、家康ののたまう世に残すような事は決してしません。」

これが私の決意であり、身分違いにも関わらず彼女を託してくださったお二方への誓いでもあるのだ。

「貴女の最期の時までどうか私めをお側に…。」


せめて、独りにはさせない

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