「白澤様ー、頼まれていた仙桃取ってきましたよ。」

背負った籠を下ろしながら、お店の出入り口から店主を呼ぶ。

「白澤様ー?」

いつもなら二回呼ばずともすぐに出てくるのに、今日は出てこない。
私が畑へ出払っている内に、どこか遊びに行ったのかな。

気付いたらすぐに手伝ってくれる桃太郎君も、今日はお休みで地獄の不喜処で働く元お供のみんなのところに行っている。仕方ない。
ちょっと量があるから手伝って欲しかったけど、自分で中へ運ぶしかないようだ。

「よい…しょ……っ。」

女の子らしさなんて無いような掛け声を掛けながら、近くにいた兎さん達が一つ二つずつ仙桃を持ってくれたおかげで少し軽くなった籠をずるずると引っ張って中へ。

兎さん達にお礼を言って、扉を閉めてから振り返った。

「あ。」

白澤様、みっけ。
カウンターに突っ伏して、微動だにしない。
近寄ってみると、微かな寝息が聞こえた。

「あらら。」

彼が突っ伏してるカウンターの周りには、漢方や擂り鉢といった薬を作るのに必要な道具が散乱している。
隣には火にかかったままの鍋まで。あ、もうすぐで中の液体が沸騰しそう。

「危ないなあ…。」

薬作りの途中であろうその鍋の火を止めるのに少し戸惑ったけど、火傷したり火事になったりするよりずっと良い。
ゆっくりと火を止めた。

「疲れているのかな。」

そういえば、ここ最近はナンパしたり花街に行ったり、ここに女の子を連れてきたりしていない気がする。代わりに、夜な夜な本を抱えて一夜を過ごす姿を見かける。
彼が今、枕代わりにしているのみたいな分厚い本。

「新しい薬でも作ってるのかな。」

だとしたら、起こさない方が良いだろう。留守番くらいなら私でも事足りるだろうし。

そう思い、カウンターを挟んで彼と向かい合わせになるように椅子を持ってきて座ったところで私の記憶は途切れた。





「やべ…寝てた。」

昨日遅くまで調合の手順を考えてたしなあ。そういえば、鍋で薬を作ってる途中だった。
…鍋?

「しまった…!」

火を消した覚えは無いから、多分まだ火にかけっぱなし。慌てて見てみると、あれ?

「止まってる…。」

誰が消してくれたんだろう。
その疑問はすぐに解消された。

「あ…名前ちゃん。」

僕が顔を伏せていた場所のちょうど隣。散らばる薬や道具の間で彼女が寝ていた。
寝落ちする前に頼んでいた仕事が終わって、ここまで運んでくれたらしい。隣には籠いっぱいに仙桃が入っていた。

きっと重かっただろうに。起きて手伝えば良かった。

「謝謝。」

彼女を起こさないように注意して、顔に掛かるさらさらした綺麗な髪をよけて頬に唇を寄せる。

「よし、頑張ろ。」

とりあえずまずは薬を完成させて、机を片付けよ。


感染しました


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