目の前にはくるくると回りながら、自分の尻尾を追いかけているシロ君。

その近くには如飛虫堕処からの報告書を運んできてくれた芥子ちゃん。

そして、私の足元には取材をさせて欲しいとゴマをする小判さん。

「もふもふしたい…。」
「…何を、とは言いませんよ。」

シロさんも芥子さんも獄卒ですし、小判さんは出版社勤務ですからね。普通の動物とは少し違いますよ。

「何で分かったんですか。」
「声に出ていましたよ。」
「マジですか。」

こんなことで嘘を付いてもしょうもないでしょう。
そう言って小さくため息を吐く鬼灯様。
そんなに色々と声に出していたのか、私。

「でも皆さん可愛いですよー?」

そう近くの小判さんを抱き上げた。

「ニ゛ャ…名前様ですか。」
「驚かせてしまってごめんなさい。」

ふふふと笑えば、小判さんもニャーと小さく鳴いて笑ってくださった。
喉の下あたりを擽るように撫でると、ゴロゴロと鳴る。

「ここが気持ちいいのは猫又も一緒なんですね。」
「妖怪とは言え、わっちは元々現世で普通の猫やっていましたからニャ。」

そういえばそんなこともおっしゃっていたな、なんて思いながら今度は肉球をプニプニしてみた。

「気持ちいいー。」

プニプニ、ゴロゴロ、プニプニ、ゴロゴロ。

楽しくってついつい顔が緩む。
その場にしゃがみ込んで本格的に小判さんを構い倒そうと思った瞬間、腕の中の重みが消えた。

「…鬼灯様…降ろしてくだせぇ…。」

声のする方を見ると、首根っこを鬼灯様に掴まれた小判さんがふりこみたいにゆらりゆらり。
残念。
せっかく小判さんをもふもふさせてもらっていたのに。

唇を尖らせていると、小判さんを地面に降ろしながら鬼灯様が呟いた。

「小判さんは男性ですよ。」

だから、あまりそう無防備にならないでください。私の前以外で。

「…嫉妬ですか?」
「…そうですよ。」

何ともばつが悪そうに、そっぽを向いている鬼灯様。でも、その横顔が微かに赤く染まっていて。

嬉しくてその体にぎゅっと抱きついた。

「私が一番構いたいのは鬼灯様ですよ。」
「そうですか。」

私よりずっと大きな体の鬼灯様を抱きしめて、その胸にすりすりと顔を寄せる。
手を合わせて握りしめたり離したり。

「これではむしろ名前が猫みたいですね。」

最初は素っ気なかった鬼灯様も、いつの間にか腰を屈めて私の頭を撫でていらっしゃる。

「にゃー。」
「…何ですか。」
「猫の真似、です。」

なでなで、すりすり、なでなで、すりすり。

こうしていると本当に猫になったみたい。
そう言うと、鬼灯様はちょっと困ったように笑って。

「名前が猫だと困るんですけどね。」
「どうしてですか?」

首を傾げると、軽い力でデコピンされて。

「こうやって貴女と抱きしめ合えないでしょう。」

なんて、優しい顔をしていらっしゃる。


黒猫のタンゴ


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