「ねえ桃太郎君。」
「何ですか、唐突に。」

ごめんね、ちょっとだけ。
ちょっとだけ、愚痴を言わせてもらっても良いかな、なんて。

「今までは僕が聞く聞かないに関わらず言ってたじゃないですか。」
「そうだね。」

そして、ため息を一つ。

「ハァ…。」
「名前さん…?」

そうだよね。唐突に名前を呼ばれたかと思えば、ため息ばかり吐く女なんて誰から見ても重いよね。
付き合わせてごめんね、桃太郎君。

「ハァ…。」
「ため息ばかり吐いていると、せっかくの幸せも逃げちゃいますよ。それに、あなたが僕を振り回すのも今更じゃないですか。」

そう言って、温かいお茶を淹れてくれた桃太郎君って本当に優しいね。

「…分かっていてずっと一緒にいたんでしょう?」
「そうだよ。」

頭じゃちゃんとあの人(人じゃなくて神獣だけど)が、そういう性格だって分かっているんだよ。

でもね、でもね。

「心がついて行かないんだよ。」

彼と出会ってから早くも数世紀。神獣の彼にとってはほんの少しの時間だっただろうけど、元々が人間の、亡者である私にとってはとても長い時間だった。

「…もう諦めようかなあ。」
「名前さん…。」

ああ、桃太郎君ってば優しいんだから。君がそんな悲しそうな顔をする必要は少しも無いんだから。

「もういい加減この気持ちにもきちんと向き合わないと、ね。」

ニコリと笑えば、ほら。
もう大丈夫だから。

「これでもう、いつも通りの私。ね?桃太郎君。」
「…そうですね。」

そう無理矢理桃太郎君を頷かせて。

吉兆の印だ、なんて言って私には幸せを運んでくれなかった貴方と、今までの自分にサヨナラを告げるの。


引き金を引いた道化師


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