「白澤さんにはこれを。」
「いいの?これは名前ちゃんの一番のお気に入りだったでしょ?」
「だから白澤さんにあげるんです。」

そうクスリと笑う彼女につられて僕も笑う。
名前ちゃんが今いるのは大きな病院の一室。
生まれた時から体の弱かった名前ちゃんは、物心ついた時から医者に言われていたらしい。

成人するまでは生きられない、と。

でも彼女はそんな自分を悲観せずに、寧ろ明るく毎日を楽しく生きようと必死だった。

そんな彼女に僕が出会えたのはたまたま。
現世にしかない薬を求めて降りてきた時に偶然立ち寄った場所がこの病院の中庭で。そこに彼女が散歩に来ていた時だった。

「白澤さんには感謝しかないんです。」

どうして、と問えばより一層笑みを浮かべて。

「だってあなたは私にとっては神様みたいな人だったから。」

毎日お昼になると必ず部屋に来てくれて、おしゃべりしてまた帰る。あなたにとって何ともない行為かもしれないけれど、生まれてこの方病院から殆ど出たことがない私は友達なんて作れなかった。そんなところに毎日のように顔を出して話し相手になってくれることがどんなに嬉しかったか。

「だから白澤さんにはダリアなんです。」

今まで本当にありがとうございました。

そう笑って髪飾りを差し出してくれる彼女の手をぎゅっと握りしめて。

「名前ちゃんは優しい子だね。」
「白澤さんの方がずっと優しいです。」
「ううん。」

そんなことないよ、って笑って。
どんなに薬に精通していたって、どんなに神獣で力を持っていたって、女の子一人の命すら永らえさせることができない僕に比べたら。周りの人にそれだけ気を遣える名前ちゃんの方がずっとずっと優しい、いい子だ。

そんな無力な僕が君に言えることなんて大したこと無いけれど。
でも、これだけ。

「また、逢おう。」

天国に来た君を必ず見つけ出すから。だからまた逢おうね。
なんて言葉は飲み込んで。

彼女がこれをどう受け止めてくれたのかは分からない。けれど、その時初めて名前ちゃんが泣く瞬間を見たんだ。


天竺牡丹に祈る


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