「ねえ、名前ちゃん。」
「…。」
「名前ちゃん。」
「…。」
「名前ー。」
「…。」

…駄目だ。さっきからずっと呼んでいるのに、彼女はちっとも気付いてくれない。

一心不乱に筆を動かして、勉強を頑張っている姿を見ているのも、それはそれで楽しいんだけどさ。
僕が教えた漢方についての知識を吸収しようと頑張っているのも、凄く嬉しいんだけどさ。
ちょっとは僕ともおしゃべりして欲しいな、なんて。

それに昨日も一昨日もその前も、ずーっと夜遅くまで勉強しててさ。全然体を休めてないでしょ?

「名前。」
「…白澤様?」

ああ、やっとこっちを向いてくれた。
何かご用ですか、って小首を傾げてきょとんとしている隙に、彼女の手から筆を取り上げた。

「あ。」

勉強できないので、返してください。

手をいっぱいに伸ばして僕から取り返そうとするけど、身長差で届かない。それを良いことに、筆をどこか遠くへ放り投げた。

「白澤様!」
「だってこうでもしなきゃ、名前ちゃんは休んでくれないでしょ。」

こんなに隈まで作っちゃってさ。

目の下をなぞりながら言えば、彼女はばつが悪そうに顔を背ける。
それを無理矢理僕の方へ向けさせて、目線を合わせて。

「頑張るのも良いけれど、ほどほどにしなよ。」

たまには息抜きしないと、どこかで疲れが出て倒れちゃうからね。

そう言って唇を一つ、彼女の額に落とした。

「…分かりました。」

顔を真っ赤にさせながら呟く彼女の頭を撫でて。

「カモミール・ティーを煎れてあげる。」

この間リリスちゃんがくれた、いいやつがあるから、それを君に煎れてあげる。

頑張る君が、少しでも息抜きができるように。


過保護なキミ


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