桜咲いたら一年生
ひとりで行けるかな

「何を歌っているんですか。」
「現世での、思い出に残っている歌です。」

私が病気に掛かる前の、一番元気で一番笑っていた時に通っていた幼稚園の卒園式で歌った歌。

小学校や中学校は入退院を繰り返しながら通って、卒業式も何とか病院の先生に許可を貰って出席したが、高校はそうもいかず。卒業式の前の日の夜に死んでしまったために、卒業式に出席出来なかったことが思念として残ってしまい、地縛霊となってしまった。

それから紆余曲折あって、気付けば地獄で鬼灯様の下で働いている現在となる。

「やっぱり卒業式に出たかったな、って。」

今では仕方のないことだと諦める気持ちもあるが、でもやっぱり諦めきれない気持ちもあって。

ぽつりぽつりと気持ちを零せば、それを遮るように鬼灯様に名前さん、と呼ばれた。

「名前さんに、お渡ししたいものがあります。」

何だろう、と頭を捻る私をよそに、鬼灯様にまた名前を呼ばれた。

「卒業証書、苗字名前殿。右の者は高校の教育課程を修了したことを証明する。」

卒業おめでとうございます、と彼に渡された証書には、私が通っていた高校の名前が記されていて。裏面には、当時の友人やクラスメート、担任の先生からのおめでとうの文字。

「これ…!」
「貴方への供物の中に紛れていました。」

卒業式のあったその日の夜に営まれた貴方の通夜で、担任の先生と校長先生がご両親に託されたようですよ。

鬼灯様から告げられる言葉に涙が溢れてきて、震える両手を伸ばして受け取る。

「ありが…と…ござ…ます……っ!」

溢れる涙に構わずに、証書を裏返して、みんなの書いてくれた寄せ書きを見る。
端っこから順に、クラスメートや友人、後輩やお世話になった先生方。
中心には両親からのメッセージが。

――今、笑っていますか。

その一言と、入学式の時の笑っている私の写真が貼られていた。

それを見た途端、更に溢れる涙。それを止められずに、証書を抱いて顔を伏せて泣いた。

しばらくして涙が止まった頃、顔がぐしゃぐしゃになった私に鬼灯様はハンカチを渡してくれて。

「涙を拭きなさい。ご両親は笑顔の貴方が見たかったのでしょう?」
「…そうですね。」

お父さん、お母さん。私、今、笑っているよ。

そう顔を歪めた私に、鬼灯様は一言、良い笑顔ですね、と呟いた。


幸せ配達人


[Back]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -