ここ暫くの間、仕事が立て込んで昼休みも満足に取れない日が続きました。
そんな中では趣味にかまける時間もなくて。日課だった金魚草の花壇の水やりすら十分に行えませんでした。

「枯れていないと良いんですけどね。」

動物の金魚は毎日餌を与える方がかえって駄目にすると聞きますが、金魚草は動物とは断言し難い。そもそも動物の金魚は、淡水魚なので四六時中水に触れていますが、金魚草は空気に触れています。
植物であれば水を与え過ぎると根が枯れてしまいますし、逆に与えなければ水不足で枯れてしまう。
まあ…果たしてそれが金魚草にも当てはまるのか疑問ですが。

頭の中で先に水を蒔こうか餌を与えようか。順序を考えていれば、目の前には花壇。
側の階段を降りて近付けば、誰かの気配がします。

「おや…?」

此方に気付かずに、鼻歌混じりに作業をする様子は楽しそう。
手にじょうろを持っていることに気付き、一人納得。どうやら私が来れなかった間に彼女が世話をしていてくれたようです。
確か、彼女は――…。

「苗字さん?」

無意識に少し大きな声が出たらしい。びくりと肩が跳ねて、恐る恐る此方へ顔を向けてきました。

「……鬼灯様!」

じょうろを取り落としそうな勢いで驚いている彼女は、確か記録所勤務の方。

「お世話を…してくださっていたんですね。」
「ええ…まあ。」

悪戯が見つかった子どもみたいに怯えなくても良いのですが。
大方、無断でやっていたことを注意されると思っているのでしょう。
全然、そんなこと無いのに。

「暫く忙しくて、構っていられなかったので…ありがとうございます。助かりました。」

頭を下げれば、慌てたように顔を上げてください!と彼女が止める。

「私が好きでやったことです。お気になさらないでください。」

そう言う彼女はとても綺麗な笑顔を浮かべていました。
彼女なら、任せても良いかもしれない。
何となくですが、そう思って。

「苗字さん。」

小首を傾げて何でしょう、と聞いてくる彼女にお願いがあります、と続けて。

「私が忙しい時は、金魚草の世話を任せても良いですか。」

一瞬驚いたような顔をして、すぐににこりと笑って。

「私で良ければ。」

その答えを聞いて、良かったと思ったと同時に、もう少し彼女の笑顔を見てみたいと思ったのは私の胸中に秘めておきます。


はろー・はわゆ


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