例えば、その頭。
黄帝からも師事されたくらいの、ありとあらゆる中国妖怪の知識。私が風邪を引いた時にいつも助けてくれる、古今東西の多岐にわたる漢方の知恵。
それらが全部中に詰まっている、貴方だけのもの。


例えば、その手。
しなやかで、でも男らしく角張っていて私のよりずっと大きい。私に優しく触れてきたり、魔法みたいに薬を紡ぎ出したりするそれ。
貴方しか持っていない、素敵なもの。


例えば、その口。
いつもは微笑みを湛えているけれど、時々キュッと引き締まっている。そこから吐き出される声は、私の胸をいつも熱くさせる。


例えば、その目。
口と併せて緩く曲線を描いているそれは、瞼の奥に宝石みたいな綺麗な黒を秘めている。
一度それに捉えられれば最後。どんな抵抗も出来なくなってしまう。

貴方しか持っていない、私が好きで好きで堪らないところ。

微睡みから覚めて、隣を見ればすぐ傍にいる貴方。寝ている白澤様を見ているだけで、好きなところがいっぱい思い付く。
ううん。好き、だけじゃ言い足りない。
この気持ちはきっと―――…。



「何、何か考え事?」

いつの間に目を覚ましていたんだろう。此方を向いて、ぱっちりと見開かれた双眸。

僕がいるのにヒドいなあ、なんて傷付いたふりをしてぎゅっと抱きしめられた。
それすらも優しくて、自然と笑みが零れる。

「白澤様。」
「なあに。」

呼べばすぐに答えてくれる距離。それがとても嬉しい。

「白澤様のこと、考えてました。」
「へえ。」

嬉しいなあ、そう言ってゆるゆると伸ばされたそれを、自分ので握ってみた。

「私、多分、白澤様の全部が好きなんです。」

私なんか足元に及ばないくらい知識の詰まったその頭も。
いつも優しく触れてくれるその手も。
笑みを湛えて嬉しい言葉を吐いてくれるその口も。
真っ直ぐに私を見てくれるその目も。

「全部全部、好きなんです。」

こんなにも好きって思えるのは貴方だけで。
ずっと傍にいたいって思うのは、後にも先にも貴方だけで。

そう告げればゆるりと曲線を描いたままの唇が、空いてるもう片方の手で掻き上げられた前髪の奥の額に落ちてきた。



「僕も…君だけだよ。」

ああ、ちょっとクサい言い方になっちゃった。でもね、本当だよ。
僕だって君と同じ。

くるくると目まぐるしく変わる表情を一番に伝えてくれる目も。
鈴を転がしたみたいに響く声を紡いでくれる口も。
僕のにすっぽりと収まってしまうくらいに小さくて傷一つ無い綺麗な手も。
僕が考えていることをぴたりと当ててしまう頭も。
全部、全部、全部。

「大好き。」

いや、大好きだけじゃ言い足りないかな。
そうだな…。

「愛しい、かな。」

君を絶対に手放したくないくらい。
籠に閉じ込めて、僕以外の誰にも触れさせたくないくらい。

「…なんて、ね。」

すると、絡められていた手がするりと離れて。僕の頬に触れてきて、さっき僕がしたみたいに、今度は僕の頬に彼女の唇が降ってきた。

「私と一緒。」
「そう。僕も君と一緒。」

ねえ、これって相思相愛って言うのかな。

そう尋ねれば、こくりと頷く君。

「それはきっと。」

お互いに、お互いのことが大好きで、大事で、愛しく想う。
それはきっとこの世で一番素敵なことなんじゃないかな。



花椿さま提出


いとしくおもうのです


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