「私、死んでもいいわ。」
「随分と物騒なことを言うね。」

全く困った主だと、そうくすりと笑う歌仙に向かって私も笑みをこぼす。

「やっぱり知っていたんだね。」

忠興公が生きていらした頃よりずっとずっと後の話なのに、と言えば、君から借りた本に載っていたからね、と何とも勉強熱心な回答が。

今夜は月がとても綺麗で。
審神者になる前、都会で人の波に流れながらも生きていた頃のように空を遮る物もない、この本丸では殊更光が強く感じて。
眠れずに縁側に出て空を見上げていれば、そこへ来たのは近侍の歌仙だったのだ。

「こんな明るい夜なら、君は眠れないとボヤいていそうだと思ってね。」

そう笑われれば仰る通りで、と返すしかない。
全く、彼はよく分かっている。

「主、そろそろ眠らないと明日に差し障るよ。」

歌仙が来てから小一時間ほど。
月も天頂から僅かに傾いていた。

「まだ眠れないよ。」
「おやおや……本当に困った主だ。」

ならば、寝物語でもしてあげようか、と笑う彼に手を引かれ、そのまま褥の中に戻る。

「寝物語にぴったりの、恋の物語をしよう。」

人間に、恋した神の話なんてどうだい?

「それは、何とも。」

素敵なお話だこと、と返せば風流だろう、と散らばる髪をさらりと撫でられて。

「そうだな…始めは今夜は月が綺麗ですね、とでも言おうか。」

そう言う彼の肩口に顔を寄せて。

「私、死んでもいいわ。」

震える声を悟られないように、もう一度言った。



私、死んでもいいわ


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