真っ白な壁に真っ白な天井。
そこに横たわる彼女の体に纏わりつくシーツや枕までもが白で統一されていて。

「白澤さん。」

小さく笑いながら僕の名前を呼ぶ彼女は、この真っ白な世界の中で唯一の光を放っている。

「白澤さんにはこれを。」
「いいの?これは名前ちゃんの一番のお気に入りだったでしょ?」
「だから白澤さんにあげるんです。」

あなたはこの白い世界しか知らなかった私に色々なことを教えてくれたから。
そう言ってまた嬉しそうに笑う彼女に釣られて僕も笑って。

「白澤さんには感謝しかないんです。」

どうして、と問えば僕の方をまっすぐに見て。

「だってあなたは私にとって光だから。」

毎日お昼になると必ず部屋に来てくれて、たくさんおしゃべりしてくれる。あなたにとって何ともない行為かもしれないけれど、生まれてからずっと病院のこの部屋からほとんど出たことが無い私は友達なんて作れなかった。そんなところに現れて、話し相手になってくださることがどんなに嬉しかったか。

「だから、白澤さんには感謝しかないんです。それを私なりに伝えようって思って。」

今まで本当にありがとうございました。

そう花の形を模した髪飾りを差し出してくれる彼女の手をぎゅっと握りしめて。

「名前ちゃんは優しい子だね。」
「白澤さんの方がずっと優しいですってば。」
「ううん。」

そんなことないよ、って笑って。
いくら薬に精通していても女の子一人の命すら長らえさせることができないのに。

そんな無力な僕だけど。
君に言えることなんて大したこと無いけれど。
でも、これだけは言いたいんだ。

「また、逢おう。」

その時初めて名前ちゃんが泣く瞬間を見たんだ。



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