「あ…。」

生徒会が終わって、さあ帰ろうと校舎から一歩、外に出た途端に空から雫が一つ落ちてきた。
それに気付くと同時に次から次へと雫は降ってきて、あっという間にザーザー降りの大雨に。

ごそごそと補助バックを漁ってみても、折りたたみ傘は見つからない。いつも入れっぱなしにしているのに、今日に限って忘れてしまったみたい。

「どうしよう…。」

多忙な両親に連絡するなんて手段は端から無いし、受験生なお兄ちゃんはとっくに予備校に行っているだろう。部活をしている友達に頼ろうにも下校時間なんて過ぎている。

困ったなあ。

なんて、生徒用の玄関口で立ち止まっていた時だった。

「…名前先輩…?」
「三成君!まだ帰ってなかったの?」

現れたのは生徒会の後輩の三成君。確か一年生は半兵衛先輩が先に帰していたはずなんだけど。
そんな私の疑問に三成君は、先輩方よりも先に帰るなんて恐れ多い事が出来ずに教室で自習をしていました、と答えてくれた。

「先輩、傘は?」
「忘れちゃった。」

苦笑いしながら答える。三成君は、と聞くより先に、彼の左手に傘が握られているのに気付いた。

「傘があるなら三成君は早く帰りなよ。」
「先輩はどうなさるのですか?」
「私?お兄ちゃんに連絡して来てもらおうかな、って。」

そう言えばすぐに嘘ですね、とため息を一つ。

「先輩のご家族は皆、帰りが遅いとご自分でおっしゃっていたでしょう。」

そういえば、以前、家族の話になった時に言ったような覚えがある。
よく覚えてたね、なんて感心していると、不意に三成君に呼ばれて。

「名前先輩。」

駅までご一緒させてください。

「えっ?」

私が言葉を飲み込もうとしている間に、傘を開いた彼に腕を引っ張られて、そしてそのまま玄関の屋根の下から外へと誘われた。

「三成君!?」

驚いて思わず大声で名前を呼ぶ。慌てて傘の外へ出ようとすると、私よりもずっと強い力でまた傘の下へ引き戻される。

「傘から出れば濡れてしまうでしょう。」

だからそんなに離れないでください。

そう言われてしまえば、私は大人しくしておくしか術はなくて。

その後は三成君が話しかけてくることは無くて、私も話しかけられずに、お互いの肩が触れそうで触れない、微妙な距離を保ちながら無言で駅まで歩いた。





「ありがとう、三成君。」

駅の改札口で彼と別れる。私は一番ホームに、彼は反対の二番ホームに。
ちょうど三成君の方のホームに電車が来た。きっとそれに乗るのだろう。

もう一度お礼を言えば、ちょっとだけ困ったような、でも優しい顔をした三成君は。

「いえ、名前先輩のお役に立てたのならば良かったです。」

それでは、失礼します。

そう頭を一つ下げてホームへと去っていく。
人混みで見えなくなる前に、一瞬だけ見えた彼の背中は肩口が濡れていて。
優しいな、なんて思うと同時に胸がとくんと鳴った。
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