薬を調合していたら、ちょっと足りない材料があったから。今日がお休みの桃タロー君の代わりに、名前ちゃんに留守番を頼んで出かけたんだ。

それが大体、今から一時間くらい前のこと。
無事に材料も手に入って、しかも欲しかった他の薬の材料まで手に入った僕は、気分が良かったんだよ。

それなのに。

「なるほど…それで鬼灯さんがいらっしゃったんですね。」
「ええ。全く…あのジジイ。」

なんで鬼灯の野郎がいるの。
お前が注文してきた薬は昨日渡してやったじゃん。

なのになんで。

しかも名前ちゃんと楽しそうに会話してさ。
名前ちゃんもいっぱい笑っててさ。

「あ、白澤様!」

おかえりなさい、と笑顔で彼女は言ってくれたけど、その顔をあいつにも向けていたって考えたら、どうしようもなくイライラして。適当にうん、とかなんとか言って、そのまま自分の部屋に向かった。

「名前さんも随分面倒な相手に好かれましたね。」

そう呟く一本角に向かって、近くにあった空の薬瓶を投げつけるのを忘れずに。



「あー…もう…。」

ベッドに横になってぼんやりと天井を見上げれば、僕の頭の中を後悔の二文字が占める。

確かに腹立つけど、あいつの言うとおりだよ。僕って面倒な性格してる。自分でも分かってるよ。
名前ちゃんも、そんな子じゃないって分かってる。ただ、僕が一方的にイライラしただけ。

短く一つ、ため息を吐いて。ごろりと寝返りを打って、扉に背を向けた時だった。

「白澤様…?」

数回扉をノックする音。そのままゆっくりと扉は開いて、聞こえてきたのは彼女の呼ぶ声。

「鬼灯さんは帰られましたよ。」

閻魔大王が急に体調を崩されたらしくて、それで代わりに鬼灯さんがお薬を取りに来たそうで。

「ふうん。」

ああもう。せっかく名前ちゃんが来てくれたのに。
僕はまた、素っ気ない返事しかできない。

そんな自分にも腹が立って、ますます後悔の念が押し寄せてきた瞬間。

ふわり、と何か暖かいものが僕の背中に触れて。
驚いて振り返ろうとすれば、体が動かない。

「名前…ちゃん…?」
「白澤様。」

何か怒ってらっしゃいませんか…?

ぽたり、と暖かい液体が、僕の頬へ落ちてきた。

「私、なにか白澤様の気に障ること、しちゃいましたか…?」

その声が震えていることに気付いて。また振り返ろうとすれば、今度はすんなりと体が動いた。

「名前ちゃん…。」
「ごめんなさい、白澤様。」

ごめんなさい。

目の前の彼女はただ、謝罪の言葉を繰り返す。
ごめんなさい、ごめんなさい、と。

「違う…。」

違うよ。

「ごめんね、名前ちゃん。」

謝るのは僕の方だ。

名前ちゃんと鬼灯が喋っているのを見て、勝手に腹を立てた僕が。
そのせいで素っ気ない返事をして、君を泣かせた僕が。

僕が、悪いんだよ。

「本当に…ごめん。」

謝って許されるような事ではないだろうけど。

そう言う僕に、名前ちゃんは首を横に振って。

「白澤様がそこまで私のことを考えてくださっているのなら。」

これほど嬉しいことはありませんよ。

なんて、笑ってくれるから。
僕は胸がいっぱいになって、彼女を思いっ切り抱きしめた。
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