「こんな所にいらしたのですか、政宗様。」
「名前か。」

少し離れた場所から酒宴の騒ぎが聞こえる。

今日は先日の戦の勝利と無事を祝っての酒宴の日。そのために城内全ての女中が昼間っから宴会の準備に追われていた。
その中には正室にもかかわらず、女中に紛れてくるくるとよく働く名前の姿もあった筈だ。

そんな彼女がここにいる理由を考えてみた。
やはり…勝手に抜け出したオレを追ってきたのだろう、となんとなく見当を付ける。

「今日の主役はあなた様ではないですか。それを抜け出して…。」

見事にヒット。
だが、あまり嬉しくないのは彼女が咎めるような口調だからだろう。

「小言は勘弁しろよ。小十郎みてぇだ。」
「小十郎様でなくても言いますよ。」
「Ah……たまには一人酒も良いだろ。」

祝いの席は無礼講。オレがいたら下っ端は羽目を外せないだろ?

そう言えば、それもそうだと小さく笑ってオレの隣にちょこんと座った。

「綺麗な月ですね…。」

ふと空を見上げ、名前が呟く。

「だろ?だから、な。」
「ええ。これなら確かにお一人でお酒を飲みながら感慨に浸るのも悪くないですね。」

お前も飲むか、と猪口を差し出す。

「では…一口だけ…。」

手酌をしようとした彼女を制して徳利を取り、少し傾ける。

「ありがとうございます。」

一口。そしてまた一口。
オレが一口で飲む量を、名前は三口かけて飲んでいた。
そうして飲み終えた彼女は、猪口をオレに返し、オレの手からスルリと徳利を抜いて、一言。

「次は私が。」




気付けば大分、時間が経っていたらしい。遠くに聞こえていた宴の喧騒は静まり返っていた。
ふと、隣に目をやる。
そこにはすうすうと寝息を立てている彼女。あれだけ働いていれば、そりゃあ疲れも出る。

「Good night,名前。」

また明日、笑った顔を見せてくれよ。


笑う三日月


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