最近、オレはあいつを見るのが怖い。
昔はあれだけ一緒になって外を駆け回ったり、昼寝したり、風呂まで一緒に入ったことだってあるのに。なのにあいつはオレの知らない間に成長して。気付いたころには化粧して、髪をゆるく巻いて、ほんのり露出のある服を着て、ヒールの入った靴を履いていた。
いつの間にあいつはこんなに変わったんだろう。少女から女性へと変わった名前を、オレは知らない。
 
最近、私はあいつを見るのが怖い。
昔はあれだけ一緒になって外で遊んで、お昼寝して、お風呂も一緒に入ったことがあるくらいなのに。でもあいつは私の知らない間に成長してて。気付いたころには同じだった背が伸びてて、声も低くなってて、それとなく鍛えてる体を見せつけるような服を着てて、先のとがった靴を履いてた。
いつの間にあいつはこんなに変わったのかな。少年から男性へと変わった政宗を、私は知らない。
 


今日は久しぶりに名前に会った。昔は他愛もないことをなんでも話せたのに。今となっちゃ軽い世間話をするのも困難で。何を話せばいいのか分からない。

「…久しぶり。」
「…ああ…。」

挨拶すらままならない、なんて。今日のあいつもオレの知らない女だった。色のついたリップクリームを綺麗に唇へ差して、誘っているのかなんて思いながらそこから目が離せない。すると綺麗な唇がちょっぴり開いて、「今日、告白されてたでしょ。付き合うの?」なんて爆弾を落としていく。

「Ah?見てたのかよ。」
「部活も終ってさあ帰ろうって時に体育館の裏にいるんだもの。嫌でも目に入ってくるわよ。」

それなりに話し声も大きかったし、なんて事も無げに言う名前に冷や水を浴びせられたような気分になる。よりによってこいつに見られるなんて。何で。嫌だ。胸の奥から黒くてモヤモヤした感情が沸き上がる。

「見んなよ。」
「じゃああんなところでそんなオハナシしないでよ。相手の子、可愛いことで有名な先輩だったじゃん。オッケーしたんでしょ。」

「そんなわけあるか」、なんて咄嗟に言えなかった。告白自体は断ってる。だが、それを言えば「どうして?」と聞かれるのが目に見えてる。その時なんて返せばいい?でも名前の顔がちょっと寂しそうに見えて、期待したくなる。オレが好きなのは名前、お前だって。お前もそう思ってくれてるのかって。世間話すままならない相手を前にそんな事言えるか。
「昔から、お前のことが好きだった。」って。
 


今日は久しぶりに政宗に会った。お母さんから頼まれたお使いに行く途中だったものだから、私は適当な部屋着で。でもあいつは雑誌から飛び出したみたいにかっこいい服を着てた。どうしよう。何を話せばいいのか分からない。なんで昔の私はあれだけどうでもいいことも話せてたの?「今日、告白されてたでしょ。付き合うの?」気付いたらそんな言葉が口から洩れていた。そんなこと言うつもりなんて全くなかったのに。

「Ah?見てたのかよ。」

見せモンじゃねーんだけど、なんて言うあいつは顔色一つ変えずに本当、何でもないことのように言うから。心の中に鉛のような重たい何かがズシンと落ちた。

「だって部活も終ってさあ帰ろうって時に体育館の裏にいるんだもん。嫌でも目に入ってくるよ。」

とまれ、とまれ、私の口。そんな事ちっとも思ってないくせに。
本当は裏に行く二人の姿が見えたから追ったくせに。
それ以上言うと政宗にうっとおしがられるって。
彼女でもないくせに、何彼女面してるんだって。そんな心の中とは異なって、私の口は止まらない。

「じゃああんなところでそんなオハナシしないでよ。相手の子、可愛いことで有名な先輩だったじゃん。オッケーしたんでしょ。」

言ってからしまった、って思った。なんで政宗がそんな傷ついたみたいな顔するの。なんで。どうして。そんな顔されると期待したくなっちゃうよ、なんて思っちゃう自分の都合のよさに嫌になる。世間話すら難しくなってる相手に向かって、そんな事思っちゃうなんて。
「そんな先輩なんかよりずっと、私の方が政宗のこと好きだよ。」って。
 


「……じゃあ私、お母さんにおつかい頼まれてるから。」

そう言ってくるりと方向転換した名前。何故か分からないけれど、このまま別れたら、もう二度と話をしなくなりそうな気がして。そうなるくらいなら振られた方がマシだろって。咄嗟に手を掴んでしまった。

「な、何……?」

めちゃくちゃびっくりした顔。そりゃそうだよな。訳が分からないよな。でも、これだけは聞いてほしい。余裕なんてかけらも無くて、ただとにかくこの気持ちを伝えなきゃって思って、真っ直ぐに俺の目を見つめてくる名前に向かって言ったんだ。

「先輩とかいうあの女とは付き合わない。」

あの女に言ったんだよ、好きな奴がいるから付き合えないって。すると名前の目が揺れて、ほんの一瞬だけ驚きと喜びの混ざったような顔をしたんだ。
何で、お前、どうして。
なあ、お前が見せたその顔、期待していいのか?
軽く息を吸って吐いて。

「オレはお前が、名前の事が、昔から好きだったんだよ。」

実際はほんの数秒だったと思う。でもその時のオレには何時間にも感じられて。ゆっくりと口を開いた名前が紡いだ音が、声となって、言葉となってオレの耳に届いた時、今まで生きてきた中で一番嬉しいと思ったんだ。

「わ、私も……政宗のこと、好きだったよ……!」


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