全く、昔からあいつは眩しかった。

「政宗!」

そうオレの名前を呼んで、手を引いてくれた。
病気で片目の光を失った当時のオレは、母親と会話するのにすら苦労するくらいに塞ぎ込んでしまって。誰とも会いたくない、外に行きたくない、そう言って部屋に引きこもった。
そんなオレに光をまた見せてくれたのは他ならない名前で。

「政宗、おそとにいくよ!」

きょうは、ようちえんでならったあそびやろう!

そう手を無理矢理にでも引っ張って外へ連れ出してくれていた。
その頃はただただ迷惑だと思っていたが、今振り返ればそれがなければ今頃オレは駄目になってただろう。
そう思うくらい、あいつの存在は大きいもの。
だけど。

「政宗。」
「Ah?なんだ。」

今でも隣であいつがオレの名前を呼んでくれる、それだけで満足していたのに。

「私、大学は県外に出たい。」
「地元の大学の文学部に行くって言ってたのにか!?」
「うん。」

今はまだ足りないけれど、やってみたい。
なんて、自分の目標を持つあいつの隣にまだまだいたい。
これを世間は依存と言うのだろうか。
でも。

「丁度いい。名前、お前の志望校の近くに俺の志望してる分野で有名な教授がいるんだよ。」
「本当!やったあ!じゃあまた側にいれるね!」

そう嬉しそうに言ってくるお前を見ていると、オレだけが依存している訳じゃないと思えるから。
だから。

「本当にここを狙っていいか、親と相談、だな。」
「政宗のご両親なら反対しないでくれそうだけど。」

まだ確定していない未来の話でも簡単に喜ぶお前の頬に手を伸ばして。
少し触れれば擽ったそうに笑って。

「政宗。」

そうやってまた名前を呼んでくれるから。
だからオレはまだお前のそばを離れられない。



井の中の蛙は大海を夢見る


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