「いらっしゃいませー。」

事務的な声で入店を告げる店員に案内されて窓際の席に着く。
ご注文がお決まり次第、伺いますという彼女を遮ってホットコーヒーを一杯頼んだ。

平日のランチタイムを過ぎた午後四時半。
客は私以外に一組の老夫婦と大学生くらいのお兄さんだけ。
とても静かな店内は、でも居心地はそう悪くはない。
オーダー入ります、と遠くで声が聞こえた。

「こちらホットコーヒーになります。」

ごゆっくりどうぞ。
すぐに運ばれてきたそれを一口。
するとマナーモードにしているケータイがポケットで震えた。

悪ィ!今起きた!

チャット形式のメッセージアプリに表示されたのは彼の名前。

そんなことだろうと思った
今どこ?

きっと今頃慌てて準備しているんだろうなぁ、なんて思いながら短く返信する。
すぐに既読が付いた。

約束してた駅の時計台
あんたこそ今どこだよ

それを見て窓の外に目をやれば、ケータイを片手にキョロキョロと辺りを見回す彼の姿を見つけた。

思ったより来るの早かった
その時計台から見えるカフェ

わかった
そっち行く

新着メッセージの通知を見て、確認した途端に入り口のドアベルが鳴った。

「悪ィ!!」

両手を合わせて謝る彼に、どうせバイトか何かだったんでしょ、と言えば早朝のシフトに入っていた人が急に来れなくなり、代わりに今朝方まで入っていたという返事。

「俺から誘ったのに遅れっちまって…。」
「いいよ、時間あるし。」

でも、と言い淀む彼の名を呼んで。

「左近。」

名前を呼んで、椅子に座るように促せば、ようやく腰を落ち着けた彼に運ばれてきたお冷やを差し出す。

「バイトお疲れ様。」

いつも綺麗に整ってる前髪がぐしゃぐしゃで、慌てて出てきたのが分かるくらい。
それを手を伸ばして払う。
ありがとう、そう笑う彼に私も小さく笑って。

「今日残りの時間、楽しませてよ。」
「勿論!」

名前はどこ行きたい?俺さ、新しくできたってあの店、絶対あんたが気にいると思ったんだよな。行ってみねぇか?

笑顔で彼の話に頷きながら、すっかり冷めたコーヒーにミルクをたっぷり入れて飲み干した。



冷たいコーヒー


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