「悪いけど…君の気持ちには答えられないな。」

いつもみたいに微笑を浮かべる半兵衛先輩。
でも、その口から告げられる言葉は鋭利な刃物みたい。私の心に突き刺さっていく。

告白したのは、今日が卒業式で先輩に会える最後のチャンスだったから。
地元を離れて、遠くの大学に進学する先輩に会える最後の日だったから。
これを逃せば、先輩とそう簡単に会えなくなる。

そう、幼なじみの三成や吉継からも言われて告白したのだ。
恋愛小説や少女漫画にありがちな、ずっと前から先輩のことが好きでした、なんてベターな告白をしたのだ。

でも、現実はフィクションみたいに甘くなくて。
熱に浮かされたみたいに全身が熱い。

「聞いてくださってありがとうございました。」

泣くな泣くな。
先輩と会えるのも最後なんだから。先輩の記憶に欠片でも残れるなら、泣き顔より笑顔の方がずっといい。
だから、泣くな泣くな。

先輩と一緒に生徒会やれて楽しかったです、そう言って、無理矢理にでも笑って。
失礼します、と頭を下げてその場から離れた。





卒業生と在校生の入り乱れる体育館や教室に帰る気にはなれなくて。
体育館のある方向とは反対の、生徒会室に来てしまった。

扉を開ければ案の定。誰もいなくて静まり返っている。
すぐに中へ入って、入り口に鍵を掛けた。

一人になると、さっきまで熱に浮かされた時みたいに上手く回らなかった頭が急速に冷えて、回り出す。

「私、馬鹿みたい。」

試しに呟いてみれば、身に沁みてくるその言葉。

先輩に憧れて生徒会に入って、一緒に活動していく中で憧れが好きの気持ちに変わっていって。
同様に生徒会に入った幼なじみの三成と吉継にはいっぱい相談に乗ってもらって。
そして最後の思い出にと先輩の卒業式の日に告白して玉砕。

まるで何かの物語みたいなストーリー。違うのは、最後がハッピーエンドじゃなくてバッドエンドなところ。

「…ふふふ…。」

自然と笑いが込み上げてきて。
それと同時に涙も溢れてきて。

確かに私は先輩が好きだったのだ。

こうやって思い返せば、すぐに先輩を思い出すくらいに。

振られたことが悲しくて、涙が零れるくらいに。

一人になりたいと願って赴いた場所も、先輩との思い出がいっぱい詰まった生徒会室なくらいに。

確かに私は先輩が好きだったのだ。


春惜月


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