世間じゃ徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍とで日の本が真っ二つに割れているとかなんとか言っているけど、ここ備前の地は至って平穏そのもの。

まあ、領主の秀秋君のところには両軍からそれぞれ手紙が来ているみたいだけど。
とりあえず私の周りは大した戦もなくて穏やか。

「だからって…限度があると思いますよ、天海サマ?」
「少しくらい良いじゃありませんか。」

良くない。私の何かが確実に減る。

「大体秀秋君はどうしたんですか。」
「金吾さんは西と東の両軍の大将からいただいた手紙を前に困っていますよ。」

くつくつと笑いながら言うことじゃない。秀秋君に助言を与えるのがあんたの仕事でしょう!!

…なんて言えたらどんなに良いか。
しかし曲がりなりにも私はこの人の部下。言えないのが現実なのだ。
全く、仕官しているのがこんなのだなんて…。

「名前、少しで良いんですよ。ほんの数刻だけ。」
「い、や、で、す!」
「ただの髪飾りじゃないですか。」

それが本当にただの髪飾りなら、私だってここまで拒否しない。
でも、それはただの髪飾りと呼べる代物ではない。

「ただの猫の耳を模しただけの髪飾りじゃないですか。」
「それはただの髪飾りとは呼びません!」

ほら。

先ほどから天海様が私に付けろと強要してくるのは、彼が述べたように猫の耳を模した髪飾り。
先日、九州の情勢の確認と称した単なる物見遊山に出掛けてきたこの人は、土産だと言ってこの髪飾りを買ってきた。
なんでも西洋では日常的に使われるものだ、なんて言ってきたけど、絶対嘘だと思ってる。

「名前が付ければその可憐さも益々引き立つと言うのに…。」
「黙れ似非僧侶!」

仮にも僧侶を名乗っているのだから、少しくらい禁欲すべきだこの人は。

―付けてください
―嫌です

―付けなさい
―絶対嫌です

そんな押し問答を繰り返すこと数十回。
先に折れたのは天海様だった。

「仕方ありませんね…では、貴女が眠っている間に付けて楽しみましょう。」

…って、全然諦めていなかったよこの人!
しかも寝ている間に、って更に質が悪いし!

とりあえず今晩からしばらく寝る時は部屋の近くの廊下に防壁を築いて、部屋に鍵を掛けて寝よう。


にゃんにゃんにゃん


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