「名前、名前。」

名前を繰り返して呼べば、なあに?と首を傾げてきょとんとする名前はやっぱり可愛い。

「どうしたの、慶次?」

いきなり引っ付いた俺を邪険にする訳でもなく、幼子をあやすように頭を撫でてくれる彼女の手が優しくて。

「んー…。」

もっとやって欲しい、なんて思ったり。

声に出していないのにそれが伝わったのか、くすりと笑って甘えん坊、って言われて。
ちょっと待って、って言われて素直に体を離せば、いい子いい子ってぽんぽんと軽く頭を撫でられた。

それから彼女は崩していた足を正して一言。

「おいで。」

そう言って、自分の膝を叩く。

引き寄せられるみたいにしてそこにごろんと寝ころんで、見上げてみれば俺の視界は名前でいっぱい。

「お使い、ご苦労様でした。」

頑張ったねなんて言いながら、ゆっくりと俺の頭を撫でて笑う名前を引き寄せて、唇を落としてようやくただいまを言う。

「兄様が“ありがとうございました”って。」
「あれ位、礼を言われる事でもないさ。」
「ううん。慶次のおかげで上杉は大分助かっているもの。……怪我、してない?」
「してないよ。」
「良かった。」

ほっと一息吐いた彼女の全身から少し力が抜けて。いくら武家の事が、戦の事が分かっていてもやっぱりどこか不安だったらしい。

「心配掛けてごめんな。」

この戦乱の世の中じゃあ仕方ない事かもしれないけど、心配させた事に変わりはなくて。

「俺はここにいるよ。」

大丈夫、の気持ちを込めて名前のお腹に顔をうずめた。

「うん。」

ふわり、と小さく風が吹いたかと思えば小さなリップ音が1つ。

「慶次は絶対無事だって、信じてるから。」

うずめていた顔を回して名前を見れば、ほんのり頬を赤く染めながら笑う彼女がいて。

ああもう。やっぱり俺は名前が大好きだ。


君依存症


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